GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 沖田はいつも素直でない。だが、そんな男が素直になどなったら破壊力が凄まじ過ぎて心臓に悪いと気付いてしまった。──惚れた男の素直な言葉など、照れくさくて落ち着かない。
 酒に飲まれることなど滅多にない彼が、全身から熟柿のような匂いを発散させて土方の顎を掴む。何かよくわからないものにギラギラ輝いた瞳に捉えられ、何も言えなくなった。
「土方さん、アンタ…綺麗ですねィ」
「…は?」
 二の句が継げず口を数度開閉させる。沖田の瞳は揺らがない。
「──お前、頭でも打ったのか?」
 それに。綺麗だなどもし言うのならば。どう考えたって沖田の方だ、と土方は思う。文句のつけようもない美少年だ、外見だけは。
「頭ァ? 俺に限ってそんなヘマするはずがねーでしょうが」
 …訂正する。ヘッ、と口角上げこれ見よがしに肩を竦めたこの表情は、全くもって綺麗でも可愛くもない。
「綺麗ってェのはな──」
 瞬間、脳裏を彼に面差しの似た女がよぎり、土方は沖田の手を払い打ち消す。
「女とか、花とか、宝石とかよ。そういうモンに言う言葉だ。俺みてェな男に言うモンじゃ」
「俺ァ、アンタ以上に綺麗なモンなんて見たこたァありやせんが」
 ぞくりと背が震えた。動揺を誤魔化すように頭をぶんぶん振る。
「つまんねェ人生だな、オイ」
 項を掴まれた。思い切り体重をかけられ、酒臭い息が土方の唇を擽る。
 強制的に視線を合わされてしまうと、もう逸らせない。
「いやァ、最高だと思いやすぜ。この歳で世界で一番キレイなモン見ちまった」
 鼓動が喧しい。
 息まで苦しくなってきた。
「──眼科と精神科、どっちを紹介してほしい?」
 無理矢理押し出した憎まれ口は無様に掠れていた。
 にやァ、と沖田の毒々しいほどに紅い唇が歪んだ。
「──アンタ、真っ赤ですぜ。内科と外科、どっちがご希望ですかィ?」
 どっちだってごめんだ、と吐き捨てたいけれど。
 たまに、彼と上手く喧嘩ができなくなってしまう。言い負かされるのが腹立たしいなんて思うより先に、うるさく喚く鼓動と、心が白旗を掲げている。そして──
「ほら、ちゃんと言ってみなせェ、土方さん」
 沖田のひんやりした両手が土方の頬を包んだ。
 こんな彼に負けるのは、残念ながら、たまに。不快でないのだ。
 土方は口を噤んだままそっと瞳を伏せた。
 沖田が小さく笑みを零し、熱い唇を重ねてきた。
 薄く口唇を開き、沖田の肩をそっと掴む。唇の内側を舌でなぞられ、背が痺れた。
「──このビョーキは、病院じゃ治せねェよ」
 沖田の肩を軽く押しやる。
 あっけなく離れた温度に勝手に傷付き、何度もごしごし自分の唇を手の甲で拭った。
「へェ、そんな大層なビョーキにかかってたんですかィ…ナニをすりゃァ治るんで?」
 にやにや笑いが気に食わない。土方は沖田の胸倉を掴み、飄々とした瞳を睨みつけた。
「特効薬が知りてェか」
「そうでさァねィ…俺に殺される前に勝手にくたばられちゃァ、面白くもありやせんから」
「──俺のクスリは…」
 沖田と鼻先を突き合わせる。
「てめェだよ」
 沖田の口角がく、と持ち上がった。
「そんなに惚れられてたたァ、ちっとも知りやせんでした」
 コイツだって大差のねェイカレっぷりの癖に…あァ──本当に、ムカつく野郎だ。


2013.7.2.永


あきゅろす。
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