GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 男所帯、しかも年齢層は若いときたら、女が一人でもいるとし難い話題だってどんどん出ることもある。者によっては、仲間内に手を出す奴だっているかもしれない。そんなヤツに、恐れもなく性事情を訊く奴だっているかもしれない。
 そして、捻くれた男は問われた上司とのセックスをこんな言葉で無表情に宣うことだって、あるかもしれないのだ。
「土方とヤるなんざ、一人遊びと変わらねェや」
 沖田に渡す書類を持って隊長室の前までやってきた土方の額に、ひく、と血管が浮き出た。
 すぱん、と襖を開け沖田の部屋に乱入する。
 ひィ、と声を上げて脱兎の如く逃げ出した山崎は見なかったことにし、沖田の胸倉を掴み上げた。
「もう一度言ってみやがれ、てめェ」
 沖田の片眉がゆっくり持ち上がり、口元が笑みの形に歪んだ。
「あんなん──オナニーと変わりやせん」
 土方は奥歯を噛み締め沖田を見据え──…
 ややあってトン、と突き放し、大きく息をついた。半身になってぐしゃぐしゃ自分の髪を掻き乱す。
「ずいぶん手のかかるオナホ使ってんだな、お前。いっそホンモン買ってくりゃどうだ、小遣い程度で色々買えるぜ」
 ちらりと一瞥した沖田は、相も変わらずの無表情でぷいと外方を向いた。
「──ゴム臭ェなァ嫌いでさ」
 しかしその声には微かにいじけた音が混ざっていて、だがそれに溜飲を下げるには至らない。
 話の流れ、素直になれない沖田の性格。それら全てを考慮した上で、やはり面白くない。
「コンドーム使やァどっちだってゴム臭ェだろうが…んならコンニャクにしろよ。あれならナマでイけっし、臭わねェ」
「──ありゃァ…アレルギーなんでさァ」
 しれっと嘯く沖田は、土方の顔を見ない。彼は彼で、気まずさでもおぼえているのだろうか。男同士は遠慮がなくて良いだなんだと言ったところで、拗れてしまうと同じらしい──自分が、彼に対して大人になれないせいであるのだろうけれど。
「コンニャクアレルギー? お前、昨日の晩飯で食ってたじゃねェか」
 沖田の手がぐいと土方の胸倉を掴んだ。
 漸く土方を直視した沖田の鋭い瞳が土方を見据える。
「──アンタじゃねェと、気に入らねェんでィ」
 低く唸る声が鼓膜を震わせる。
 あァコレが聞きたかったのだ、と思った。
「オナホなら気ィ使わねェモンのがいいだろうが」
 その感情を引き摺ったまま口を開くと、漏れた声は隠しようもない不貞腐れた甘えを含んでいて、土方はそっと唇を噛む。
 案の定、沖田は瞬間大きな瞳を見開いた。そして、にんまり細める。
 実に、腹立たしい。
「──アンタ、怒ってんですかィ」
「──怒ってねェ」
 顔を背けた先に回り込まれた。
 ねっとり顎を撫でられ身を捩る。
「ありゃァ──言葉の綾ってヤツでさァ」
 宥めるような口調が気に喰わない。自分よりずっと年下のくせに。こんな、ガキのくせに──
 土方は沖田の手を掴み引き寄せた。間近で視線を捉える。
「ドコで誰が聞いててもおかしくねェのに、言えちまうようなコトなんだろうが」
 自分の喉を通過した音は変に掠れていて、ますます気に入らない。
 沖田の空いた手が土方の頬を包み、親指がつうっと唇をなぞった。
「こういうのも悪くはありやせんねィ」
「…あ?」
 項に手を回され体重をかけられた。背伸びした沖田の唇が押し付けられる。
 口腔を満たす熱い温度にふるりと睫が震えた。
「──アンタは、俺のでィ…安心しなせェ」
 ぺろりと土方の唇を舐め言い切られた音には、どこにも安堵する要素などないはずなのに、土方は反射のように小さく頷いていた。


2013.6.13.永


あきゅろす。
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