GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 付き合いを始めてしばらく経った頃。土方を褥に押し倒した沖田は、傍目にもわかるほどガチガチに緊張していた。彼には珍しいくらいに。
 声は上擦り、手は震え冷や汗に塗れて──土方の緊張が思わず溶けていってしまうくらいに。
 それでもなんとかマウントポジションを取り、硬い表情で彼は口角を吊り上げる。
「今までの女なんか目じゃねェくれェ、ヨくしてやらァ。覚悟しなせェ」
 そんなことを嘯きながらも、土方の手首を押さえる掌は冷や汗に濡れ、声は切迫し、体はあからさまに震えているのではサマになどなりようもない。
 あまりの彼のガチガチっぷりに余裕のでてきた土方は、憐れみすら覚え口元を緩ませる。
 しかしこれではどうしようもない。恥ずかし過ぎてバラすつもりはなかった真実を教えてやろう。
「何だ、その言い種は。自慢じゃねェが俺ァ──」
 言いかけたはいいものの、本当に自慢にならない内容に土方は思わず口籠る。
「あ?」
 虚を突かれたか、きょとんと見開かれた瞳が向けられ、腹を決めた。
「…ど──」
「ド? …ドMですかィ?」
 沖田の大きな瞳のあどけなさに、罪悪感すら込み上げる…発言内容はてんで真逆であろうとも。こんなガキと、人に言えぬことをしようとしている。
 まして──
「…──ドーテー、だぞ」
 自分が彼の歳の頃はこんなこと、考えもしなかったというのに。
 沖田の瞳は面白いように見開かれ、痛いくらいに掴まれた手首への圧が緩む。
「──嘘でしょう…?」
 弱冠18歳でソレを経験しようとしている彼にとってその驚愕は当然かもしれない、と思うとやはり悔しい。その苛立ちが素直に声に絡んだ。
「んなウソついてなんになるってんだ!」
「いや、童貞でその色気…」
 どうせ経験に嘘をつくならもっとサマになる嘘をつく。何が悲しくて相手と変わらぬコドモであると嘘の暴露をする必要があるのか。今まで散々張り合ってきたガキと、今更この分野でなら対等であると勘違いされるメリットなど何処にもない…──嘘であるならば。
 しかしこの現実は沖田にとって相当な衝撃であったらしい。面白いように真っ白になって硬直していた彼は、掠れた声で呟いた。
「──犯罪だろィ。あァ、わかったぜィ。処女じゃねェんですねィ」
 ひくり、と土方の頬が引き攣る。
「バカにしてんのか、テメェ…こんなん、お前が初めてに決まってんだろうが」
 たった今そうなりそうとはいえ、かつてから男になるより早くオンナになっていたなど心外過ぎる。自分だって侍の矜持を保っているのだから。なのに沖田は心底驚いた眼差しを向けてくるのだ。
「えェェェ…──」
 いつもの冗談、わざと驚いてみせるのではなく本当に驚いているのだから腹立たしい。
 土方は頬を引きつらせ、まだ自分に伸し掛かったままの沖田の肩を押しのける。乱れた襟元を正し、ぷいと視線を背けた。
「──やっぱり、やめるか」
 その一言で沖田は弾かれたように衝撃から立ち直り、同時に半ば頭をもたげたひじかたに膝蹴りを食らわす勢いで乗り上げた。
 不意を突かれた形で声にならぬ悲鳴を上げ褥に沈む土方に、沖田はしれっと口端を持ち上げた。
「冗談…せっかく残ってるってェならその純潔、余さず俺がいただいてやりやさァ」
 ほこらしげに微笑む沖田を涙で潤む視界に捉え土方は、選択を誤ったかと文字通り痛感した。


2013.5.16.永


あきゅろす。
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