GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 巡回中に起こった爆破テロの被害に合い、不覚にも瓦礫に閉じ込められた。身動ぎさえ儘ならぬ狭さで沖田を背負うようにして立つ。体を真っ直ぐ伸ばすことすらできぬ空間で──どのくらい経っただろうか、爆破の直前に察し屯所に連絡を取ろうと取り出した携帯電話は、目下行方知れずで時間すら定かではない。
 ことが起きたのは廃ビルだった。周囲の人気のなさから鑑みるに、おそらくこの爆発の被害を受けているのは恐らく自分達だけだろう、しかしこれが副長と斬り込み隊長を足止めする目的なのは明白だ。なのに一向に自力で脱出できる気配も、助けが来る様子もなく苛立ちばかりが募る。
「──ッ、クソ!!」
 崩れぬよう気遣いながら押しても引いても、周囲に立ちはだかる瓦礫の壁はびくともしないばかりか、外光の一筋さえ入らぬ状況に、土方は苛々と煙草を銜え…すぐに握り潰した。
 一向に息苦しさを覚えないと言うことは──いや、図らずも沖田を強制的に負ぶわされている状況は相当に息苦しいが──どこからか空気は入って来てはいるのだろうけれど。どこでなんの気体が漏れているともわからぬ今、下手に火を使うのは憚られる。
 不用意に動いて今、ギリギリで自分達を護っている瓦礫が崩れても御陀仏だ。
 要は、じっとしている以外は自殺行為なのだ。
「ちったァ落ち着きなせェ、土方さん…見苦しいですぜ」
 見苦しいのはこの状況だ。
 体勢を変えることすら意の儘にならぬ狭い空間では、背に負ぶさるようにしてのんびり呟く沖田を振り返ることすらできない。
「──重てェんだよ、てめェ」
「んなこと言ったって退く場所もねーんだから、仕方ありや…」
 淡々とした音が不意に途切れ、知らず背筋がひやりと冷たくなった。
「…どうした?」
「あ〜なんか…」
 ごそ、と身動いだ沖田が土方の腰に彼のそれを擦り付けた。どきりと鼓動が大きくなる、しかしその高鳴りは彼の次の言葉にぎしりと固まった。
「小便したくなってきたァ」
 確かに、閉じ込められてもうかなりの時間が経過していると思われる。そろそろ生理現象が催してきてもおかしくない。しかし、今──このクソ狭い中、土方が被害を受けず沖田がそれを済ませることはほぼ不可能だと思われた。二人とも健康で若い男だ、襁褓なんて気の利いたものもない。
「──待て」
 とりあえず切実な思いから引き留めはしたものの、果たしていつまで我慢を強いればよいのかなど皆目見当もつかない。
 それくらいわかっているのだろう、沖田は土方の項に額を擦り付け飄々と嘯いた。
「いや、もう間に合いそうにねェや、ここでしていいですかィ?」
 ぱくりと耳朶を食まれぞくりと身を震わせる。咄嗟に自身の耳に宛てようとした手は瓦礫にぶつかり、足元にコンクリートの欠片が転がった。
 その隙にも甘えるような吐息が耳を嬲る。その上、夜伽を迫るときのような湿った音で名を呼ばれ──
「お前、わざとだろ!」
 腕力で負けるはずはなくとも、背後を取られた上でのこの狭さはどうにも分が悪い。
「んな照れなくてもいいじゃねェですかィ」
 尻に触れる彼の腰がやたら熱く感じた。
 ほぼ動けぬが、微かに擦り付けられた気がして息が震える。
「照れじゃねェェェ!」
 そう叫ぶそばから、彼が二人の隙間に手を差し入れるのがわかった。
 チャックの下がる音がした。思わずごくりと生唾を飲み下す。
「ん…ちっと、ケツ上げて足開いてくだせェ」
 掠れた音が首筋をくすぐった。
 体を真っ直ぐ起こすことすら儘ならぬ狭い空間で、前面を覆う瓦礫に頭を押し付けるようにしてなんとか僅か腰を上げる。そっと窺った足の間からそうごがちらりと頭を出した。
「っ…」
 言葉にならない思いが胸の奥から突き上げる。逃れる場所などない、からせめてぎゅっと瞼を閉じた。
 尿の匂いが鼻をつく。ぶるっ、と彼が小さく身震いした。
「──もういいですぜィ」
「…あァ…」
 ──助けは、まだ来ない。


2013.4.17.永


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