GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
「土方ァ」
 気のない声が背後から届いた、と同時に土方は身を翻す。一瞬前まで自分のいた場所を白刃が一閃した。
 刀を隙無く構え、犯人たる沖田は悪怯れもしない。
「イライラするんでちっと死んでくれやせんかィ」
「あァ!?ふざけんな、誰が──」
 瞳孔見開き吠える土方に動じる沖田ではない。彼にそんなに可愛らしいところがあるなら土方の心労は半減している。
「じゃねェなら、やらせてくだせェ」
 淡々とした音は、本気か冗談かすら窺わせない。
 血管が2、3本ぶちぶちと音立てて切れた気がした。
「一緒じゃねェか!」
「殺るんじゃねェ方でィ」
 沖田はにやりと口端を持ち上げた。
「アンタ、ツラはちったぁマシじゃねェですかィ」
 口許だけで笑い、沖田の手がするりと土方の顎を撫でる。
「なァに、ちっと目ェ瞑ってりゃァ終わりやすぜィ」
 少し冷たい温度が喉仏を突いた。土方はぎくしゃく唾を飲み込む。
「お前は何処の変態だ…」
 反発の声は明らかに掠れ、まるでサマにならない。
「マグロでいいって、この俺が言ってやってんですぜィ」
「嬉しくねェェェ!」
 上手く力の入らない腕を振り上げ、力一杯の叫びと共に沖田の手を叩き落とす。
 腹筋が無様に引き攣った。
「なら、騎乗位で思っクソ腰振ってくだせェ」
 叩かれた手をさしたるダメージもなさそうに振り、沖田は飄々と宣う。その瞳は、今ひとつその真意を覗かせない。
「ぜってェ嫌だっ! もうやだお前…なんだって俺はこんなんと──」
 ぐ、と顎を掴まれた。
 視線が合う。
 沖田の唇が歪な弧を描いた。
「そりゃァアンタが俺に惚れてっからですぜィ」
 紅い瞳がすうっと細められる。
 ぴりぴり痛む程に乾いた唇を一舐めし、沖田を睨みつけた。
「──お前に言われっとすげェムカつく…」
 事実を突き付けられるのが嫌なことは得てしてあるが、これ以上に直視したくない現実があるだろうか。
 理不尽なことを言われ、からかわれ、玩具にされてそれでもなお胸が高鳴るだなんて、こんなに認めたくない現実があるだろうか。
 こんなに腹立たしいのに、見据えた沖田はやっぱり問答無用で愛しいのだ、もうどうしようもない。
「とにかく──」
 大きく息を吐き、沖田の肩を押し退ける。剣術は上達しても、まだ発育途中の彼は完成した大人の腕力に敵うはずもなく、僅か蹌踉めく。
 む、と瞬間沖田の眉が寄り、その瞳が不敵に輝いた。
 思わず小さく息を飲んで、それがまた悔しく土方は視線を逸らす。
「あと、にしろ…俺ァまだ忙しい」
 喉を通過した声は変に上擦っていた。
 年上の男の余裕とか威厳とか、そういったものは奪われっぱなしだ。少しでも体勢を立て直したい、のに。
「──土方さん」
 沖田の掌が土方の項に触れた。自分より一回りは小さなそれは、剣胼胝に彩られている。
「──嫌ですかィ?」
 強気な瞳と、相反して揺らぐ音は狡いの一語に尽きる。
 土方は小さく舌打ちし、彼の手首を掴み取った。
 引き寄せて噛み付くように口付ける。瞬間沖田に走った動揺に溜飲が下がるのも束の間、大きな瞳が眇められた。
 下唇をゆっくり舐られ、土方は瞼を閉ざした。


2013.3.11.永


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