GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
「そんぐらいやりゃあ箔がつくからよ」
「ハクって何でさァ、白濁ですかィ」
「違ェよ! 一人前の男に近づくってことだ」
「俺ァ、疾うに一人前のつもりでしたがねィ。見なせェ、毛ェだってこんな──」
「いきなりこんなとこでんなモン見せんじゃねェェェ!! 猥褻物陳列罪でぶちこむぞ、こらァ!」
「──それ以外なら、俺ァ剣一振りで勝負してェんですが」
「お前な…いや、お前に実力がねぇたァ言わねェよ、だがな、大人の世界にゃ色々あんだよ、わかんだろ」
「ちっともわかりやせん」
「わかってくれよ、頼むから…」


 などと散々ごねてくれた総悟は、それでも見世の開く刻限になると素直に私服に着替え吉原に向かった。年齢や、外見や、色々とギリギリな男だが、肝心のお目当ての女臈が童顔の美少年、沖田をお気に召したのだから仕方ない。とにかく、彼女の馴染み客の情報が欲しいのだ、なんとしても。
 そんな訳で、沖田と二人土方は、女を物色する体でのんびり遊郭を歩く。
 目的はひとつだが、他の見世や客にも注意深くさりげない視線を送る。と、
「多串さん」
ぼそりと吐かれた己が偽名を聞き逃しかけた。一拍遅れ振り返る。
「なんだ、総…一郎」
「あんた、俺が女抱いても平気なんですかィ」
 淡々とした言葉は余りに今更で、でも改めて形にされるとグサリと棘が胸を刺した。
「お前な…」
 平気な訳はない。
 そんなはずがない。
 気分はとても悪い。
 だが、そんなこと言えるはずがない。これは仕事だ、あの女は重要な情報を握っている可能性がとても高い。その遊女が、沖田を気に入ったのだ。相手は商売女だ、早々客の情報を漏らすはずもないが、本気にさせその信用を勝ち得たならばただの女──いや、世間一般の色恋に縁薄いからこそ、一度心を開かせたならば並の女より遥かに情深い──
 これは仕事だ、と土方は重ねて心の中呟く。
 本音を言えばこんなこと、させたくはない。
 沖田はこの賭けに勝つためにはどうしても必要な駒だ、彼にしかできない。しかしそれはそれとして、この男は土方のものなのだ。
「──俺ァ…」
 道の真ん中に立ち竦む二人を、邪魔そうに通行人が避けて行く。
 夜にこそ輝き咲き誇る街は、いよいよ本格的に目覚めはじめた。
 沖田が不意に土方の二の腕を掴む。びくりと強張る土方を引き摺るように、沖田は正面を向いてずんずん歩を進めた。
「総──」
「覚悟しておきなせェ」
 沖田がちらりと土方を一瞥した。土方にぶつけられた瞳は、獣みたいにぎらついていた。知らず息を飲む土方に口の端を吊り上げてみせ、沖田は目的の見世の前、立ち止まる。
「次は、あんたでィ──」
「え、あ…」
 ふっと腕を解放される。土方がうまく音を紡げないでいるうちに、沖田はそこの暖簾をくぐった。
 振り向きもしない小さな背中は、怒気を孕み揺らめいていた。
 中から沖田を歓待する番頭の声がした。
 これは仕事だ、と土方はもう一度自分に言い聞かせる。
 ふわりと風が吹き、ひらりと暖簾が翻っていそいそ出て来た女臈の華やかな笑顔が煌めいた。
 土方はそっと唇を噛み、時間を潰す場所を探し背を向ける。
 近藤の、自分達の夢を叶えるため。できないことなどない。なのに、無性に胸が痛んだ。


2012.11.6.永


あきゅろす。
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