GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
 その日、土方はげっそりと窶れていた。朝食時に摂取したマヨネーズに下剤が仕込まれていたのだ。
 それはもう、とてもよく効き、朝から何回便所と自室を往復したかわからない。いやむしろ、便所から離れていられる時間が5分とない。
 体中の水分やら栄養分やらをたっぷり絞り出し、何か口に入れてもまた下る繰り返しで、もはや仕事どころではない。
 脱水症状と腹痛で精も根も尽き果て、諦めて今日は有給を消化することにした。
 そうと決めて午後からはひたすらによろよろと便所と自室を行き来する。
 そうこうしているうちに日が落ちて、憎たらしいくらいにぴんぴんした沖田が、土方の突っ伏す布団に滑り込んできた。
「土方…」
 夜の気配が項をなぞる。
 自分をこんな目に合わせる奴など彼以外にいないはずなのに、その変に優しい温度が心地いい。しかし行為に至る気力などあるはずもなく、顔を逸らした。
「──今日は嫌だ」
「どうしてでさァ」
 白々しい反応に、額にぴきりと青筋が浮かんだ。けれど怒る体力的余裕はなく、のろのろと背を向ける。
「腹が痛ぇんだよ…」
「──」
 背後の温もりは、喜色を見せるでもなく口を噤む。暫しの沈黙に漸く不審感を憶え振り返った。体がやたらと重い。
「…総悟?」
 何事か思案していた沖田は、不意に土方を見据える。
「わかりやした」
 眉が寄る。
 腰を抱かれた。顎をぐいと掴まれる。
「月のモンでさァねィ。で、俺の子はいつ孕むんでィ?」
 甚だし過ぎる勘違いも、ここまで来ると冗談にしか聞こえない。というか、それ以外の判断を下したくない。
 だがしかし、沖田は大真面目だった。
「違うわっ! ゲリだよ、腹下してるだけだっ!」
 痛む体とくらくらする頭を無理矢理起こして怒鳴りつける。すっかり消耗した体が眩暈を訴え、枕に頭を落とした。
 息の上がった土方をマウントポジションから見下ろし、沖田がそっと首を傾げる。
「──なんか悪ィモンでも食ったんですかィ?」
 白々しい。ものすごく、白々しい。だが彼は何故か、なんの心当たりもないようだった。
「──俺のマヨに下剤を仕込んだ野郎がいたんだが…」
 そう言ってやっても訝し気な態度に変化はない。
「誰ですかィ、んなふてェ真似する野郎は」
「いやお前だろ」
 とっさにそう返したものの、もしかして違うのだろうかと土方の背に冷たいものが走る。こんな真似をする者が沖田でないなら、これは由々しき事態だ。いや、そもそも仲間の背を狙う野郎など沖田を含め、いてはならないのだが。
「いやァ──先、越されちまったねィ…」
 そう言って沖田は、胸ポケットからピンクの可愛らしい箱を取り出す。いくら愛らしく装っていても、所詮それも下剤なのだが。
「俺ァ今日、こいつをあんたに飲ませるつもりだったんですがねィ」
 淡々とした嘆きに腰を逃がす、しかし平常通りとはいかない動きは沖田の体重に抑え込まれた。
「まだいけやすよねィ?」
 器用に口でパッケージの封が切られる。
 ぞわぁと全身総毛立った。
 殺される──
 普段が普段な男だが、今それが実現されようとしている。なのに、逃げをうつことすらままならぬ自身の衰弱っぷりが恨めしい。そして、仮にも上司で恋人で親友なのに、追い討ちをかけてくる男が苛立たしい。
「花畑を見せてやりやさァ…」
 彼に追い込まれた花畑は、さぞかしどす黒い障気に包まれているのだろう。


2012.7.29.永


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