GROWTH
沖田と近藤、土方(沖土&近×男、R18)
 近藤に誘われ、局長室で二人盃を傾ける。
 四半刻ばかりして、畳に空の徳利が数本並び、静かで心地よい酔いがまわってきた辺りで近藤が神妙に言い出した。
「なぁ、総悟…俺──好きな人ができた」
 酒臭い溜息を吐く近藤は、しかし全く酔えてはいないようだ。
「またですかィ…今度はどこの娘でさァ?」
 土方か沖田をターゲットに湿っぽく紡がれる近藤の失恋話は、もはや日常茶飯事の延長ですらあった。
 沖田はそっと肩を竦め、自分の盃に遠慮もなくきつい酒を注ぐ。そしてそれを口に含んだ、瞬間。
「いや、その──男、なんだ」
 それを盛大に噴き出した。
「はァ!?」
 ごほごほと咳き込み、目を剥いた。
 近藤は沖田の動揺にすら気付けずにぐいと酒を呷り、据わった瞳で沖田を見遣る。
「で、な…」
 やけに重々しい声と共に空の盃を突き付けられ、つい沖田は酌などしてしまう。
 しかし、近藤が、また恋──しかも、相手が男だときた。相手はどこの誰だろう、どうやって聞き出してやろうかと思う間に近藤は手元の盃を空ける。
「どうやるもんか、聞いてみたくてな」
 もう一度酌をしようとした手がぴたりととまった。
 徳利からぽたりと一滴透明な酒が畳に落ちる。
「──何を…?」
「いや、だから、その、お前がトシといつもやってることをだな──」
 据わった瞳がぎらりと沖田を睨む。
 ──ヤる気だ、この人ァ…
 ぞわりと背筋を興奮が舐めた。
 しかし、散々ストーカー行為で組の名を貶めてくれている局長だが、強姦はやばい。まして、男を──
 それでも近藤を慕う気持ちに揺らぎはない。ないがしかし、男を近くレイプしてしまうのだろう局長に、副長を常々レイプしていると思われていたのだ、と沖田は屈辱で唇を噛み締めた。
「──俺ァ、一応同意は得てますぜ…?」
 震える息を噛み締め何とかそう言うと、近藤は酒がまわってきたのかいつもの調子に戻った。
「何、その言い方!? 俺だってもらってるからね、同意くらい!!」
 強姦計画を語られるより真実味のない言葉に、それでも土方を散々姑息な手を使って犯していたなどという勘違いがないことに、ほっと肩の力が抜けた。
「へェ…」
 が、その安堵は近藤には異なる意図に見えたらしい。
「あ、信じてないな!」
 早くも半泣きになった彼に訂正して宥めてやる気にもならず、沖田は口端を持ち上げる。
「いや、まァ…女よりゃあ脈があるでしょうがねィ」
 そう言ってやると近藤は大声で泣き崩れる。景気付けのつもりだったのだろう酒がいよいよおかしな具合にまわってきたか。
「この子はっ!! おかーさんっ、反抗期みたいです、この子っ!!」
 わぁわぁと喚く近藤を肴に、沖田はゆっくり手酌を傾ける、と飛んで火に入る…ではない、土方が開きっぱなしの襖からひょいと顔を覗かせた。
「何だよ、うるせェな…」
 着流し姿の彼は風呂上がりらしくほんのりと頬を染め、ほこほこと白い湯気をたてている。美味そうだな、と沖田は最後の一杯を呑み干した。
 そんな沖田を尻目に近藤がうわぁんと土方の腰に抱きつく。
「あ、トシ! 総悟がついに反抗期になっちまったみたいなんだ!」
「あぁ?」
 その様は、幼子が母に泣き付くようであり、土方の対応もまた喚く子供に対するように投げ遣りな口調ながらに優し気だ。
 ──が、やはり面白くはなく、沖田は無言で徳利を傾ける。二、三滴の酒が盃に落ちた。
「──総悟なんて万年反抗期だろうが」
 ゆったり眉を持ち上げ沖田は、辺りに散らばる徳利を片っ端から振ってみる。それらは全て空で、壁際に置かれた焼酎の瓶を引き寄せた。
「おかーさんにはそうかもしれないけど! おとーさんには素直ないい子だったんだよ!」
「──誰がコレのおかーさんだよ…」
 こちらだって土方みたいな母親はいらない。
 困惑の眼差しが酒を呷る沖田と泣き崩れる近藤を往復する。
「土方さん、そこ閉めてくだせェ」
「あ? あぁ…」
 廊下にはみだした近藤をずりずり押し込み、後ろ手に襖が閉ざされる。
 これで隊士の目は僅かばかり行き届きにくくなるが、土方にその危機感はまるでみえない。
「近藤さん、そのまま押さえててくだせェ」
 沖田が漸く重い腰を持ち上げると、土方の頬がひくりと引き攣り、近藤は土方に抱きついたままきょとんと瞬く。
「総悟…?」
 近藤の無垢にすら見える眼差しを受け流し、土方の首筋を指先でなぞる。
「局長は、男を抱いてみてェんだそうですぜ」
「あ!?」
 僅かばかりの警戒が吹っ飛び、土方は呆然と近藤を見下ろす。そして、改めて股間にすりよるようにしがみつく近藤からぎくりと腰を退く、しかし局長はしっかり抱きついて離れない。
 そんな土方の懐を、袖を探るが、手ぬぐいしか入っていなかった。
 小さく舌打ちを漏らす沖田に土方は、こちらの下心に配慮する余裕もなく呟いた。
「いや、んな──あんなでけェの突っ込まれて平気なヤローなんてそうそういねェだろ」
「──」
 ひくりと上がった沖田の眉に、土方は焦ったように言葉を重ねた。
「いや、近藤さんよく脱いでっからよ…」
 訊いてもいない言い訳に曖昧に頷く。
「やっぱあんた、でけェ方がいいんですかィ」
「でけェなんざ痛ェだけだ、お前くらいがちょうどいい」
 宥めようと吐かれた言葉がぐさりと胸を貫き、こめかみが引き攣った。
 腹にとぐろを巻くもやもやに急かされ、せっかく近藤が押さえてくれているのをいいことに帯に手をかける。しかしその気勢は呆気なく霧散した。
「そうなのか、トシ。ちょうどいいのってどれくらいだ?」
 純粋な好奇心がじっと沖田の着物の股間を見つめる。まっすぐな視線に居心地悪く僅か身を退いた。
 腰に近藤の手ががしりとかかる。酒臭い息が沖田を見上げた。
「参考までに、ちょっと見せてくれるか」
 真剣な眼差しに頬が引き攣る。漸く解放された土方は、自分の男の危機を救おうとするでもなくトドメを刺した。
「総悟は膨張率で圧してっからな…」
「そうなのか? ちょっと勃たせてみてくれねェか?」
 酔っ払いの馬鹿力で腰を抱かれ、乱暴に押し倒された。不意を衝かれた形で眼前に星が飛ぶ。その隙に着物の下肢を割られた。
 激しく面白くないけれど体重をかけられそれどころではない。視線を投げた土方は近藤の後ろで、困ったように沖田を見返した。


2012.7.15.永


あきゅろす。
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