GROWTH
沖田と土方(沖土)
 沖田には全く面白さの理解できないペドロシリーズが、また新作を上映するらしい。土方は、放っておいても観に行くだろう。
 だから。前売り券をちらつかせ封切りの日に誘ってみたら、あっさり頷いた。
 そうして隣合わせに席に座って、30分。変質者にしか見えないオッサンが目下夜逃げの荷物を纏めている。
 土方はもぞもぞと落ち着かな気に肩を揺らし、画面と沖田を半々に意識している。その気配を感じ、沖田は肘掛けを占領してスクリーンだけを見つめる。
 黄ばんだパンツなんか大写しにする監督のセンスには、いっそ感嘆すらおぼえた。
「──土方さん、集中しなせェ」
「してるに決まってんだろ」
 画面を見据えたままにぼそりと零した囁きの返事は、しっかり涙声だった。いつの間に。
 自称集中している土方は、沖田が頷いてもなおぼそぼそ話しかけてきた。
「お前さ…もっと楽しそうな顔できねぇのか」
 そう言われてもさっきからしつこく大画面に映し出されているのは、いつ洗ったのかと問い詰めたくなるようなブリーフだ。楽しいはずもない…が、まぁ、横の涙声は気になる。
「楽しいですぜィ?」
 だからそう言ってやったのに、付き合いの長い彼は、沖田が映画に興味のないことなどお見通しだったらしい。不満げに眉を顰め、沖田を睨む。
「いや、んな無表情で言われても──いっそ一人で来たらよかったんじゃねぇか」
 一人なら沖田は、確実にこんなものをチョイスしない。
 沖田がつまらない映画だと思っていることには気づくくせに、欲しくもないクリアファイル付きの前売り券をわざわざ用意した理由は、全く伝わっていないらしい。
 沖田は小さく息をつき、画面を眺める。
 ついにペドロの家に借金取りが乗り込んで来た。ペドロは敵が玄関の引き戸を破る間に小さな押し入れに隠れようと足掻いている。
「俺ァ、あんたと来たかったんですがねィ」
 土方がこれにハマっていなければ、誰がこんなまるで趣味に合わない映画に時間を割こうか、そんな暇があったら女子プロレスでも観戦に行っている。
 だが土方は、今にも零れ落ちそうなくらい涙を溜めて、湿った声でほざくのだ。
「隣に仏頂面でいられちゃ、泣きたくても泣けねぇんだよ…」
 遠慮しねぇでその涙、零しっちまえばいいのに。


「──どこに泣けるトコがありやした?」
 とうとう映画の間涙を零さなかった土方に、喫茶店に移動してからそう問うと。訥々と映画の魅力について語り始めた。それは確かに隣で見たストーリーなのに。蘇る感動に瞳を潤ませながら土方が語ると、少しは面白そうな気もする。二度と見たいとは思わないが。
 オレンジジュースの氷をつつき、土方の表情を観察する。真っ赤な目が兎みたいだ。
「──つまらねぇよな」
「いやァ、楽しいですぜィ」
 おざなりにそう言ってやると、またぽつぽつと語り出す。
 たまの休みをこんなことに費やすのも悪くないな、と沖田はジュースを啜った。
 さて──隠し撮りしたこの泣き顔。どう使ってやるかねィ…


2012.7.1.永


あきゅろす。
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