GROWTH
山崎(山土、R15)
 おかしいって、自分でもわかってますよ。
 本当はもっとクールにドライに愛したい。
 ダメですね、俺は。狂ってる。他の何より、俺が狂ってる。
 こんな気持ちになるのはアンタだけなんですよ。狂おしいほどに、アンタだけなんですよ。
 アンタの負担にはなりたくない。俺が邪魔になったなら、斬ってください。俺は、理性の及ぶ限りアンタの負担にならないよう、一分一秒でも傍にいられるよう振る舞いますから。
 あァ、ダメだ。夢だけ食って生きられるのは獏か夢魔くらいのモンだっていうのに。


 山崎は、いざ体を重ねるようになって初めて知ったけれどなかなかの絶倫だった。そしてヤキモチ妬きで、土方の些細な行動を見咎めては思いが離れているのではないかと邪推する。非常に面倒臭いことは否定のしようもないけれど、しかしそれは決して嫌なだけではなかった。日頃散々蹴ったり殴ったりしている彼が、夜になると土方を暴き、執拗に責め、お前だけだと懇願させられるのは悪い気分ではなかった。
 だがそれは彼にとって望む形ではなかったのかもしれない。
 意識を飛ばしていると信じているのか、ぽつりぽつりと零れた独白は沈痛で、土方の胸まで痛くなる。今だって別に負担でない訳ではないけれど、それでも土方は山崎を手放したくないと思っているのだ。それがつまりどういうことなのか、理解できぬ彼ではないはずだ。土方は気の長い方ではないので、山崎の扱いが癇に障るならば伽の最中でも張り倒すくらい平気でする。──まだしたことはない、ということはつまりそういうことなのだ…と、口に出して告げるなんて恥ずかしいことできるはずはないし、山崎だって言われなくともわかっているのだから…だから、今は寝たフリを決め込むことにした。


「…何ですか、コレ」
「マヨネーズだ」
「いや…それはわかりますが何でこんなに」
 一夜明けて土方は段ボール箱いっぱいのマヨを贈れば、きっと色々と表現できるはずだ、という結論に達した。そうと決まれば行動は早く、いつもの店に一箱追加で注文し、翌日には届いたものを手ずから山崎の部屋に運んでやったにもかかわらず、彼の反応は芳しくない。心做しか顔色が悪いようにも見えるが、よほどマヨが嬉しかったのだろう。
「足りなくなったらいつでも言え。俺が買ってやる」
「いや、こんなん…一生分以上ありそうですけど」
「? 一週間分だぜ」
「アンタはそうかもしれませんけど──」
 どうにも煮え切らない態度の山崎に内心首を捻り、しかし表面上はじっと鋭く彼を見据えたまま殊更にキツい声で詰問した。
「俺の渡すモンが受け取れねェってのか?」
「いえっ、ありがとうございます!」
 両手で抱えるのが精一杯のマヨの大箱を抱き締め逃げるように自室に引っ込んだ山崎に、マヨは受け取ってもらえても土方の伝えたかったことが正しく届いた気はあまりしなかった。だがだからといってこれ以上どうしたらいいというのか。贈り物がダメなら言葉か態度で、ということになるのだろうが、生憎どちらも得意でない。理性が飛ぶほど求められて漸く吐き出せるものを、素面の状態で口にするなど並大抵のことではないのだ。
 悩みが尽きないものだから、知らず朝食にマヨを絞る手も疎かになる。
「副長! 副長! 零れてますよ!」
 周囲からの声に手許を見ると、確かに皿を逸れたマヨが机に堆く盛られていた。他の何に気を取られることがあろうとも、好物のマヨネーズが全て癒してくれていたはずなのに、これはおかしい。マヨネーズより山崎の方が土方の中での存在が大きくなっているなんてこと、まさかそんな。マヨネーズは森羅万象なんにでも合わせられる神のようなブツであるというのに。
「──俺ァもうダメかもしれねェ…」
「副長っ!?」
 騒ぐ隊士の声が遠い。


2021.7.12.永


あきゅろす。
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