GROWTH
臨也(臨静、R18)
 散々殺し合った挙句に想いを伝え合い、両想いであったことが発覚して無事お付き合いを始め、漸く体を重ねる段に至って、静雄は電気を消すことを要求した。そこで一悶着あったが、結局ベッドサイドのほの明るい間接照明だけを灯すということで合意し、いざ体を直接に触れ合わせた。勿論だが、臨也にはぼんやりとしか静雄の姿が視認できず、表情の詳細なんて識別できはしない。筋肉質な体はなかなかのプロポーションを保っているようではあったが、その色合いまでは判然としない。だが、常人より色々と鋭い静雄にとって見えるものはその程度ではなかったらしい。また、視野というのはそれぞれ異なるのを頭で理解はしていても、他人の見える世界を想像するのは難しい。自分に見えているものと同じものが相手にも見えているのだと過信する方がずっと簡単だ。
 かくして、羞恥に耐えかねた静雄は前戯そこそこに臨也と体制を入れ替えて上になり、強引に繋がった末に臨也の目を掌で塞ぐという暴挙に出た。
「…シズちゃん?」
「──見んな。格好悪い」
 甘く掠れた声で、だが乱暴に吐き捨てられた言葉に臨也の眉が寄る。
 確かにこうされては静雄の姿は全く見えない。それどころか、掌から加えられる圧で頭が痛い。
 だが、それだけではない。
 臨也はそっと静雄の手の甲に掌を重ねた。
「顔、ちゃんと見せてよ。格好悪いかどうかを決めるのは、君じゃなくて俺なんだからさ」
 恐る恐ると外された掌の向こう、薄暗がりに露になった表情は、闇に慣れた目には間接照明でも察せる程に上気して熱く蕩けていた。
「あはは…やっぱり、思った通りじゃないか」
 安心させる言葉を選ぶ余裕すらなく声を上ずらせ、手を握ったまま体制を戻して上になる。大人しく倒れ込んだ静雄は沸騰してしまうのではないかというくらいに上体を火照らせ、欲に濡れた瞳で臨也を睨んだ。しかし下肢は臨也のために大きく開かれ、繋がったままなのだか怖いはずもない。堪らなくなって胸元に頬を擦り付けた。
「シズちゃん…」
 頬を打つ拍動は速く力強く、愛おしくて堪らない。
「っ…るせえ──」
「好きだよ、シズちゃん」
 ひゅ、と胸が震える。表情を見てみたいがその勇気もなく、腰骨を掴んでいざやを半ばまで引き抜いた。そっと上体を持ち上げ、最奥まで突き上げる。ついでにちらりと見やった静雄は──予想以上だった。
 いつもいつも臨也を睨み付ける瞳はとろりと潤み、恍惚と臨也に焦点を合わせている。目許から頬にかけて朱色が広がって、薄く開かれた唇から熱い呼気が零れ──
 堪らずごくりと唾を飲み込んだ。ばかりか、どくりと精まで零れた。予想外にも程がある暴発に、息を乱したまま愕然と目を見開く。
「っ…ざ、や?」
 体内へ思う様欲を叩き付けられた静雄が、それに気付かないはずがない。掠れて上擦る声で訝しむのに、穴を掘って潜りたい心地さえしてきた。
「っ…まだ、イけるから」
 呼気を弾ませ、奥歯を噛んで緩く数度抜き差しすると、確かに芯を取り戻す自身に心底安堵し、静雄を見下ろす。静雄は小さく笑って唇の端を持ち上げた。
「ん──いいぜ、楽しませてくれるだろ。見た分の代は払わねえといけねえからなあ」
 項を抱き寄せられ、ゆっくりと彼の唇をなぞる静雄の舌を呆然と見つめた。恥ずかしがっているのから計算だったとでも言うのだろうか、いやそんなまさか。


2021.6.6.永


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