GROWTH
臨也(臨静、R15)
 セックスをしたからといって、一緒にそのままくっ付いて眠り、朝に顔を合わせたいと必ず思う訳では無い。欲を吐き出したら眠くなるのは自然の摂理だが、そのままくっ付いて眠らなければならない義理を内包して承諾しているわけでもなければ、そこまで相手を信用しているとも限らないからだ。なのに、先に勝手に臨也の腹を枕に満足気に眠られてしまっては、もはやいかんともし難い。その無防備な寝顔に嫌味のひとつでも零さなければやっていられない。
 昼間如何に殺し合おうと、情が生まれ、もしかしたら愛に近しいものまで芽生えているなんてことを自覚したくなどないのだ。
 犬は嫌いなんだ。愛情が重くねちっこいから。
お前は犬みたいだ。もう春になったのに、俺に身を預けるようにして眠っている。腹に乗った君の頭部が熱くて、俺は寝返りすらもうてないんだよ。その髪を思わず撫でてしまうくらい、仕方ないよね。
 自分に言い訳してそっと触れた金髪はきしきしと軋み、傷んでいた。それでも充分に温かくて、胸が高鳴る。人形の軋む髪とは決定的に違う生きた温度に、小さく喉が鳴った。
「ん…?」
 微かに身動ぎ臨也の腹筋に頭を擦り付けるその稚さに思わず手が止まる。
 思い通りにならない、平和島静雄が嫌いだった。臨也の望むように踊ることは全くないくせに、こうして無防備に体温を寄せ、臨也の行動の邪魔をする。起きていても寝ていても忌々しい男なのに、その体温を預けられる現実がこんなにも嬉しい。
「──シズちゃん…」
 零れた声は、少し震えていた。静雄が目を覚ます気配はない。それをいいことにそっと髪に指を絡ませ、抱き寄せる。
 ゆっくりと深い呼吸をした。彼の温度が肺一杯に満たされ、静雄を緩く揺さぶる。知らず深い眠りに落ちていった。


─ ─ ─ ─ ─
「…ん…?」
 目が醒めてすぐには、状況を理解できなかった。だが、下になった臨也の肢体に、徐々に頭がはっきりしてくる。
 またやっちまった、と胸の内で小さく呟き、しかし気分は決して悪いものではなかった。
 臨也も、眠っているときの匂いは嫌いじゃない。いつもノミ蟲だなんだと言い、化物だと言われ、殺し合いの喧嘩をして、それでも何故かこうしてたまに体を重ねている。そういうときの臨也はいつもの憎たらしく忌々しいだけの男ではないものだから、つい何となく身も心も許してしまうらしい。コトが終わって彼の体を枕に眠ってしまうなどしょっちゅうだった。日頃の関係からすれば、そんな寝首をかかせるようなことできるはずがないのに、静雄のもっと深いところの直感が、彼は静雄にトドメを刺すことなどできないと断言している。そのことを自覚してしまうと、街で会ったときの殺し合いも、段々本気で命を狙うというよりは運動やじゃれ合いじみてきて、それがまた擽ったいようで、止められない。形をもっとはっきりしたものにしてもいいくらい、互いの間に何かが育っていることは気付いているけれど、でもだからといって自分から一歩を踏み出すことまではできはしない。何より、形にすることでこのひねくれた天邪鬼が全てを否定し、逃げ出そうとするのが怖かった。せっかく、こうして腹枕をさせるほどにまで馴らしたのに、当事者になることに極度に怯える自称無敵な情報屋は、己の心の中に確かに存在する恋慕に気付くと全てを投げ出してしまいかねない、そう、わざわざ新宿に引っ越したように、今度はもっと遠くへ。


2021.6.2.永


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