GROWTH
沖田と高杉(沖高、R18)
 関係性を明確にするものは、たとえ言葉であっても持たぬ方がいいと思っていた。好きだの愛しているだの、言ったところで互いの立場を悪くするだけだ。黙っていれば、その腹に愛情があるのか打算があるのか対外的には窺えず、それこそが互いの立場を守れるのだと思っていた。
 銀時や桂のように付き合いが長いわけでもないが、沖田は聡い青年である。そうやってわざわざ形にせずとも、一切内部情報を探ろうともせず幾度も逢瀬を重ねていれば、好意も透けて見えていると確信していた。
 ──だが。
「こんなことさせるなァ、俺だけだって言えよ」
「真偽も見えぬ口約束がほしいのか。てめェにしちゃ随分と初だな」
「てめェは、言っちまったら守るだろィ」
 まさか、行為を始めてすっかり体も火照り、街路に出られぬまでに着乱れたところでそんなことを言われるとは、思ってもみなかった。
 性交をするのが相手だけだというのなら、それはとりもなおさず自分達の関係が特殊な深さを持ったものだという証になる。それが単なる事実の枠を越え、明言することで、容易く切れない絆になる。それが、怖かった。
 高杉は、世界を壊さなければならないのだ。壊れた後の世界まで、誰がノアの方舟に守られ辿りつこうと知ったことではないが、自分が沖田のために乗船したいなどほんの少しでも思えばそれは弱さになる。沖田にだけは生き延びてほしいと希うなら、刀を振り抜く手が震える。そんなことは決して、あってはならないのだ。
 高杉の志に共感し散っていった鬼兵隊の隊士は数多いる。この期に及んで今更、高杉の刃が鈍ることなど、彼らのためにもあってはならない。
「──俺ァ、おねーちゃんがいたときの方が強くなれる気がしたけどねィ」
 あっさりと軽い調子で呟いた沖田は、忌々しいことに見抜いているのだろう、こんなガキのくせに。あまりにも癇に障るものだから高杉は沖田の首に片手を回し抱き寄せた。鼻先がぶつかるほどに顔を寄せ、呼気を緩く絡ませる。
「俺ァ守れるモンは守ってらァ。後はなりふり構わず突っ走るだけだぜェ」
 甘く囁き、しどけなく開いた下肢を沖田の腰に絡ませる。沖田はム、と眉を寄せ、しかし何をも言わずに屹立した雄を内腿へ押し付けた。
「──てめェは、狡ィ」
 言葉が終わらぬうちに、入念に解されたそこを雄が強引に割り開いてくる。待ち望んだ圧迫感に大きく肩を喘がせた。
「っ…は──そうさ、大人ってなァそんなモンだろォ」
 沖田は大きな強い瞳でじっと高杉を見据え、子供扱いなんてできない質量でじりじりと食いこんでくる。
 彼だって、本当はわかっているに違いない。
 高杉は誰にでも最奥まで明け渡すほどプライドを捨ててはいない。その高杉を、もしほんの少しでも疑うとするならば、それは高杉に選ばれている自信が沖田にないからだ。人間なのだから、ときに不安に駆られることがあるのは仕方ない。でも、己の剣技で自らの立ち位置を斬り開いてきた真選組結成の一員である沖田は、遅かれ早かれ自分が高杉の中にどんな地位を占めているか確信するだろう。高杉が手を下さずともその日が来るのが明白なら、わざわざ甘い言葉で背を押してやるつもりはなかった。


2021.6.1.永


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