GROWTH
臨也と静雄(臨静、R18)
「──泣いてんのか」
「泣いてない」
「手前が泣いたら、俺はどんな顔すりゃあいいんだよ」
「だから泣いてないって言ってる、じゃないか…っ!」
 臨也は嘘吐きだ。背後から強く静雄を抱き締め、項に熱い呼気をぶつけて温かい雫を肩口へ落とすなんて色気も何もないピロートークを勝手に始めておきながら尚も嘘を吐く。振り返ってその嘘を暴いてやろうにも、未だバックで深々といざやが挿入されている状況は些か分が悪い。
 だが、あまりにも強く否定するものだからふと不安になった。まさか涙でなく鼻血だったりしないだろうか。
 どうにか振り返りたくて押さえられた頭を持ち上げようとしたが、なかなかうまくいかない。何しろ体内からどくどく響く拍動が静雄の力を削いでいく。鼻をひくつかせてみても、血の匂いはしない…ような気はした。だが臨也には、静雄に突っ込んだ体勢で鼻血を噴いた前科がある。はっきり言って鼻血を浴びせられるというのは決して心地のいいものではないのだ。涙を見られたくないなら配慮はするが、鼻血は嫌だ。少なくとも性交中の鼻血なんて漫画みたいに馬鹿らしいものは。
 静雄は体を支える手をそっと項に回し、自分を濡らす液体の正体を確認しようと試みる、が上体の支えが甘くなった分頭部が敷布に懐いた、と同時にくわえたままのいざやの角度が微妙に変わり小さな衝撃に息を震わせる。
「っ…シズちゃんってば、だいたーん…」
 同じダメージを受けた臨也は鼻声で、やっぱり鼻血だったのだろうか。それならぜひ一度抜いてほしいのだが、確認しないことには始まらない。
「っ…ざ、や──」
 顔が見たい、といいたいけれどうまく言えずに突き上げられる動きに翻弄され息を詰める。これだからバックは嫌いだ。奴がどんな顔をしているのか、何が起こっているのか探りにくくなる。
 ストロークは大きく大胆になり、だからその分快楽も大きくてもいいはずなのに、今ひとつ臨也を信用しきれていないせいだろうか、どうにも集中するのが難しくなるのだ。
「ん…うん、シズちゃん──気持ちいい?」
 甘く掠れる優しい声に我慢できずに上体を捩り振り返る。すかさず項へうずめられた顔に疑いを募らせながら、低く呻くようにねだった。
「っ…キス、しろ」
 ひく、と腰に触れた手が握り込まれる。たまらぬように寄せられた顔を薄目で睨み、紅が見当たらないのに心底安堵した。
「っ、んだ、やっぱり──」
 泣いていたんじゃないか、と言わせまいとするように音を唇で封じられた。
 こんな嘘なら、まだ許せる。なんだってこの男の涙腺が決壊したのか知らないが、いつもこのくらい可愛かったらいいのに。
 泣き顔を見られてしまった臨也は開き直って赤く泣きはらした目許をこすり、小さく鼻を鳴らした。
「──仕方ないだろ、嬉しかったんだよ」
「…そうか」
 ふてくされたような口調も、安堵が大き過ぎて寛大に許せてしまう。大体体が繋がった現状は若干どころでなく非常に戦うには分が悪い。
「──君とこうなれて嬉しかっただけなんだからね」
「──俺も嬉しいぜ」
 初めてでもないのにどういう風の吹き回しで急に感動しているのか知らないけれど。


2021.5.15.永


あきゅろす。
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