GROWTH
沖田と高杉(沖高、R15)
 高杉が一週間ほどなら飼われてやってもいいなんて、偉そうなんだかイかれてるんだかわからぬことを宣うものだから。思わずノってしまって、出逢い茶屋を一週間借り切ってしまった。だがその気紛れに合わせて7日間休みを取ることなど沖田には流石にできない。よって、せっかくなので高杉に首輪を着けて、やることをやって、黄色い朝日にせっつかれ致し方なく出勤することにした…のだが。
「何か足りねーモンはあるかィ?」
「ヤり足りねー」
「そりゃァ…後にしなァ」
「我慢できねェ」
「待てのできねー駄犬は躾直さねェとねィ」
「──何でもいいから早くシろ」
 この男が素直に行かせてくれるはずもない。だが、しおらしくすがりついてくるわけでもない。本当は置いて行きたくなどないのに、これだと余計に行きにくい。いや、彼のことだからわざとだろうか。
「──なるべく早く帰ってくらァ…犬は犬らしくイイコに帰りを待ってなァ」
「犬ってなァ依存するからなァ」
 嘯く声は笑みを孕んではいたが、逆にそれが安心できず、一日中気もそぞろになってしまった。
 サボっている暇も惜しく、常になく文句のつけようがないように仕事を片付け、怪しまれぬうちに屯所を出た。後を付けられていないのだけは警戒しつつ出逢い茶屋へ忍び込むように戻り、逢い引きに借り切った部屋へ駆け込む。
「…おけェり」
 開かぬ窓際で桟に腰掛け煙管をふかしていた高杉は、沖田の勢いに刹那目を丸くして、すぐにふてぶてしい笑みを浮かべ可愛いことを言った。
「…ただいま」
 思わず息を飲み、たっぷり溜めてから噛み締めるように呟く。
 こんな言葉、江戸に来てから口にしたことがあるだろうか、いやない。ミツバ以外に沖田をおかえりと迎えてくれる家族など──
「飯は食ってきたかい?」
「いや…」
「何か頼むかね。ここじゃァ煮炊きもできねェからなァ」
 何でもないように煙管を弄ぶ高杉に何故か堪らなくなってぎゅっと抱き付いて桟から引きずり下ろした。
「──アンタがいい」
 少し驚いた顔をした高杉はあらがわずに敷きっぱなしの布団へ押し倒され、拍子に火皿から煙草が畳に散った。
 そっと沖田に当たらぬように枕元へ煙管を寝かせ、高杉は咎めるでもなく沖田の背をぽんぽんと撫でる。
「なんでェ、俺がそんなに恋しかったか」
「──ずっと俺のこと待っててくれりゃァいいなァなんて思っちまうくれェにゃァねィ」
 有り得ない話だとわかっているが、もし普通の男女のように生涯を共にしたなら、片方が仕事をしている間もう片方が家で待ったりするのだろう。この男が背負うもの、追い掛けるものの大切さを知り抜いているから絶対に実現しないと確信する未来だが、それだけに描いてしまった光景はぞっとするほどに魅力的で、こんなにも彼を好いているのだと確信した。
「てめェが望むなら、俺ぁずっとてめェの中にいるぜェ」
「──そりゃァ死人の理屈でィ」
「は、俺ァ似たようなものさ、知らねーたァ言わせねェ」
 まともに会話をすると頭の痛くなる中二病患者でも、そんなことも全て含めてコイツといたいのだから仕方ない。
「──なんだか、飢えて仕方ねェってェツラぁしてやがるぜェ」
「あァ──腹ァ減って仕方ねェや」
 この獣に首輪を着けてずっと飼うことがもしできるなら、どんなことでも挑戦するかもしれない。だがそれはどうあっても叶わぬと知っていた。どんなに躾たつもりになってもきっといつか手をすり抜けていってしまう男が、自分の腕の中にいるこの瞬間を大切にするしかない。


2021.5.3.永


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