GROWTH
沖田と土方(沖土、R15)
「お前、俺を何だと思ってんだ…」
 今日は散々な一日だった。
 早朝からホースを持った沖田に自室へ侵入され、目覚めのシャワーだ、と水を撒かれた。土方自身はもちろん条件反射で飛び起きたけれど、布団も畳も、提出前の重要書類までもが水浸しになった。墨が滲んだ公的書類は、当然、全て書き直しである。
 布団を干し、物を運び出し畳を上げて壁に立掛け、土方の部屋は使えなくなった。
 気を取り直し、山崎の部屋を乗っ取り書類仕事を行う。
 しかし、山崎が気を効かせて部屋まで持って来た朝食は、沖田が細工したものだったらしい。
 食べた後、数時間トイレから出られなくなった。
 個室の前で謝る山崎を責める気力も湧かないほどに絞りとられ、山崎が持ってきた今度こそ安全な昼食に、僅か快復した。
 気分転換に巡回に出ると、街中に爆音が響きわたった。駆けつけた団子屋は、沖田のバズーカで全壊している。対する桂が投げた爆弾はパトカーを吹き飛ばし──更に増える始末書に偏頭痛を抱え、土方も桂の背を追いかけた。
 しかし江戸中走り回った挙句に捕り逃がし、沖田と二人屯所への帰路を辿る。
 が、たまたま前を通りかかった出逢い茶屋に引きずり込まれた。敷かれた布団に押し倒され、唇を奪われて冒頭の発言になる。
 必死の思いで紡いだ、俺を何だと思っているんだ、という発言に手を止め、沖田は眉を寄せた。
「嫁でさぁ」
 それでいて、ふざけた答えを返してくる。
「あ!?」
 思わず素っ頓狂な声をあげた土方の脳裏を、今朝からの沖田の所業が走馬灯のように駆け抜ける。
「いや、待て、幻聴だよな、そうに決まってる、絶対に幻聴だ」
 だって、おかしい。嫁、なんて響きは自分には似合わないが、それ以前に彼の一連の仕打と全くもって噛み合わない。
 なのに、彼は当然のように吐き捨てる。
「なに寝ボケてやがんでィ、嫁だって言ってんだろィ」
 いやいやいや──お前こそ、なに寝惚けてんだよ。
 肩を押され、間近に迫った変に熱っぽい瞳に、背筋が粟立った。
「やめろ、まじで…見ろよ、鳥肌たったぜ」
 そっと袖をたくしあげ、沖田へつきつける。
 と、静かにその視線が落ちた。
「──そんなに嫌ですかィ」
 一段低い声が耳朶を舐め、喉元に唇が寄せられた。
「なら──」
 かちゃり、と金属音をたて、沖田がゆっくりとベルトをほどいた。
「躾直してやりやさぁ…」


 結局、盛大に仕事をサボってしまい、土方はぐったり布団に突っ伏した。
 そんな土方を尻目に、沖田は自分だけ身なりを整え、窓の障子を少し開く。隙間から、夕焼けの柔らかな光が入ってきた。
 改めて時間帯を実感し、こんな早いうちから、と落ち込む土方の眼前に、小さな箱が放られた。それは綺麗に包装され、リボンまで掛けられている。
「──何だ、これは」
 気怠い顎を持ち上げ見た沖田は、こちらに背を向けていた。オレンジ色を浴び、それで誤魔化しきれない紅が耳に散っている。
 どきり、と心臓が跳ねた。
「──タンジョービ」
「あ?」
「今日──でさぁね」
「あ──あぁ」
 沖田の手が、障子の桟を辿る。
 それきり口を噤んだ沖田と、彼に似合わない小箱を見比べ、土方はそっと唇の端を持ち上げた。


2011.11.6.永


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