SILVER
10(R18)
 空調の効いていない室内は少し肌寒く、鳥肌が立った。しかし、そこに温かな沖田の体が重なってくるものだから、震えの走る隙すらない。まだ細い青年の背に手を回して、強く抱き寄せる。衣服越しに重なる雄はいずれも負けず劣らぬ張りを持っていて、互いにこんなにも高揚していることを隠せない。
「…ん…総悟──」
 呼吸するように零れた音は、はっきりと甘かった。気の早い先走りは下帯の中にとろりと溢れ、雄の匂いが濃くなる。待ちきれなくて沖田の着物の内へ手を這わせ、乱れる鼓動を直に感じた。妬いていたのだろうな、とわかっていた。銀時とは、近藤とも沖田とも違う意味で波長が合うらしく、苛々させられることも多いのに存外に隣が心地いい。だからといって寝たいと思うわけではないし、今ヤツとそんなことをしたら浮気になってしまうかもしれないという程度の情は沖田にあった。それでも、そんなことやるつもりが全くないからこそ余計に、このいつもふてぶてしい男のヤキモチなんかが一層可愛い。ずっと気付かないフリをして翻弄してやりたくなる。
「──土方さん…」
 ちり、と鈍い痛みが喉仏の真下を擽る。鼻先をふわふわ煽る旋毛を見下ろし、唇の端を持ち上げて軽く背を叩いた。
「オイ、そんな目立つとこ──」
 咎める言葉を選ぼうとしても、声にどうしてもまとわりつく喜色が全てを裏切っていた。そうであれば、普段から非常にふてぶてしい沖田に響くはずもない。
「隊服なら見えねーでしょ」
 それはつまり、着物で街へ行くな、ということなのだろう。表立って土方の交友関係を気にしていると言えないからとはいえ、あまりに可愛く感じられて、眼前の旋毛へ口付けた。緩く開いた足の間に割り込んでいる青年の体を腿で挟み、指先でゆるゆる項を擽る。いつも可愛げなんて全くない男だからこそ、そんな態度が可愛らしくて、胸が温かくなった。はだけた下肢を伝い侵入するお子様体温の掌に、ほんわりと体が解けていくようで、何もかもを許してしまえそうになる。だが幾度も体を重ねた男はそんな純粋な子供のような悋気を露にしてさえ、ひじかたを掴み擦りあげる手付きは的確で息が弾んだ。自分の拍動が鼓膜をゆらゆら揺さぶり、肩を喘がせる。胸の芯は触れられる前からつんと尖り、着物で隠せないのが気恥しい。褌を引き剥がされてしまうと、綿にとろりと透明な先走りが糸を引くのがわかって頬が熱くなった。己ばかり恥ずかしいのがいたたまれなくて沖田の股間に手を伸ばし屹立を鷲掴む。硬く反り返ったかれが土方以上に高揚しているものだから喉が鳴った。
「っ…」
 しかも、若くてひじかたよりずっと堪え性のないおきたが手の中でぴくりと跳ね、彼の余裕が吹き飛んだのが見て取れて口角を吊り上げた。自分より縦にも横にも大きい年上の男を抱こうなんておこがましいクソガキだが、全部許してしまえるくらい可愛いのがいけない。普段素直になれなくてバズーカだ藁人形だと嫌がらせに余念がないのも、好意の裏返しだとダダ漏れているからますます可愛い。ひねくれて面倒臭いのがまた可愛いなんてとんでもない。こんなのだから、ついつい手放したくなくなってしまうのだ。余裕を失い性急な指先が後腔を辿るのを好きにさせ、小さく息を吐く。先走りを絡ませてはいるものの少しキツい感触に眉を顰めた。僅かに痛い、けれどそれが嫌でないのだから仕方ない。肩を喘がせて協力し、おきたをゆるゆる掌で摩った。すぐにとろとろと先走りを零す素直な雄が非常に可愛い。痛くてもいいから、すぐに欲しくなってしまう。ついとろりと濡れた視線を沖田に流し、その意図を汲み取った彼の喉が小さく鳴る。体内に銜えた指先が微かに跳ねたのに、口角を吊り上げた。
「入れてェんだろ? ──来いよ」
 かっ、と蘇芳色の瞳に炎が灯る。獣の唸りじみた声と共に熱が押し当てられ、圧を押し切って一息に突き入れられた。
「っ、あ──」
 痛みと快楽が綯い交ぜになった衝撃に喉を晒し、声を零す。ふうふうと息を荒げた沖田が、瞳孔を開いた雄の瞳で見下ろしてくるのが堪らない。飄々とした可愛げのないクソガキがとても可愛いのだと、土方だけが知っている。沖田の肩口に手をかけ、緩く縋るように抱き締める。向けられたキツい瞳に笑みを返し、額へそっと口付けた。
「…アンタ──」
 可愛らしい告白か、はたまた可愛げなく土方の想いを断定して自分を守りながらの想いの吐露か。そんな苦く愛しいものを瞳に滲ませ、しかし何をも言わずに乱暴に動き始めた沖田のせいで、すぐに何もわからなくなってしまった。


2021.7.8.永


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