SILVER
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 自室で山崎と二人きりになり、土方は彼の報告を仏頂面で聞く。
 沖田の様子がおかしいのは見ていたが、彼の機嫌にばかり構ってもいられない。大体沖田はある意味ではいつだっておかしい男ではあった。代わりに山崎の報告を脳内で整理し、優先順位と対処を考え──
「そういえば、沖田隊長がなんだか荒れてませんか」
 ふと付け足された言葉で息を飲み、1拍置いて盛大に煙草に噎せた。山崎はそれを、土方に意図が伝わったものと理解したらしい、そっと腰を浮かせ、後退りしながらへらっと笑ってみせる。
「アンタ達、つくづくコミュニケーションが下手なんですねェ」
「っ…やま、ざき…っ…!」
 拳を振り上げたところで、飛び出して行った山崎のどんどん小さくなる背には声しか届かない。土方は小さく息を吐いて座り直し、煙草を深く吸い込んだ。──本当に、山崎に怒りを感じた訳ではなかった。沖田と、目下なんだかボタンがひとつ掛け違った状態になっているのは自覚のあるところで。元々飄々と掴み所のない男だが、以前はもっと理解できていた気がするのに、どうにも近頃は互いに苛立つことも増えている。だからといって、沖田に甘い言葉のひとつふたつ吐くのは気が重いだけでなく効果も薄いとわかっていた。沖田は彼の独特の感性で物事を判断する。それが仕事や剣技にも大きく影響している。剣の筋は良く、勘も鋭い。だが、その彼を納得させるのは、意図的な言葉でも態度でもないのだろうと思っていた。伝えねばならない職務は勿論きちんと伝えるが、それ以外のことはどう伝えても、どう受け取り消化されるかわからない。つまるところ、土方が沖田に現在してやれることなどほとんどないのだ…と。


2021.7.5.永


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