SILVER
4(R18)
「ん…」
 酒でいつもよりずっとふわふわ気持ち良くなって、気が付いたら沖田と怪しげなホテルにいた。それは、まァいい。沖田は意識のない土方の体に好き放題しようとしていた。それはそれで、どうかと思う。思うが、すっかり彼に慣れた体は充分勝手に高まって、今更土方が異を唱えられそうにない。
「っ、う…」
 備え付けの潤滑油をたっぷり受けた剣ダコのできた掌が無遠慮に土方の臀部を撫で回し、指が内へ侵入してきた。
 いつも、最初のその瞬間は何とも言えぬ嫌悪感で鳥肌が立つけれど、その先の快感までも覚えてしまっていて下唇を噛む。
 結局、この男の思い通りにされている。だが、それが決して不快なだけではないから、こうやって昼も夜も彼に振り回されっぱなしでなんだかんだ上手くいっているのだろう。
「土方さん──」
 性急に体内を押し広げ、拓かせて沖田は土方の膝を掬い上げ、欲にぎらつく瞳で土方を見下ろした。
 欲しくて欲しくて堪らないのにお預け解除を従順に待っている犬のようで、お前ここまでしておいて今更とか思わなくもないけれど、つい唇に笑みが広がった。
「──いいぜ」
 言葉と同時に、沖田の瞳孔がカッと開いた。押し当てられた熱いものが体重をかけられ押し入ってくる。
 こんなの、普通に考えたら男の尻に入るはずもないのに、馴れた体はおきたを拒まない。
「っ…う──」
 しかもそれが気持ち良いなんて、もう戻れないところまで来てしまっている。でも、この男に、この年下の少年の頃から知っている男に、ここまで体を作り替えられることを許したのは他ならない土方自身なのだ。
「土方さん…」
 熱っぽい声で呼ばれるだけで背筋がぞくぞくする。根元まで押し込まれ深々と繋がって、そのための場所なんかではないのに彼が自分の内にいる、それだけで視界が潤み歪む。
 はァはァと発情期の獣みたいに乱れた息を吐き、自分より小さな沖田の背をぎゅっと抱き寄せた。大きく開かされた足で彼の腰を挟み、抱き付くように擦りよる。玉の裏側が沖田の薄い下生えにちくちく刺されるのすら心地良くて、もはや戻れない。沖田の大きな瞳も熱に浮かされ土方を捉えて泣き出しそうに歪む。
 この男は、いつも素直ではないくせに、それでも実は土方をちゃんと信頼し、慕ってくれていると折々に見せてくれるから堪らなくなる。ただ嫌われている訳ではなくて、歪んだ好意をぶつけてくれるから、もうどうにでもされたくなってしまう。コイツでなければ男などに体を許すなど、矜持からも性癖からも有り得ない。だがその辺りをコイツはわかっていないようで、普段振り回されているから土方も敢えて黙っているのだ。
 土方は沖田の首に腕を回し、熱い頭を抱き寄せた。額に唇を押し付け、大きく胸を喘がせる。
「──好きだぜ」
 こんなこと、今までなかったような気がする。最中は特に沖田が可愛く見えるのは確かだが、この言葉だけはどんなに乱されても一抹の理性で封じ込めていたのに。まだ、酒が残っているのかもしれない。
 沖田は土方の腕に抱かれたまま大きく息を呑み、身を乗り出す、と自然くわえた雄も奥へぎゅっと侵入し腹筋がおののいた。
「土方さん…っ…」
 身長差のせいで重ならなかった熱い唇が顎に触れる。幼子のような熱心さに、ゆっくり目を瞬いた。
 近藤を慕うのと同じくらいの強さで、ちゃんと想われていることを知ってはいたけれど、なかなかどうして素直ではない沖田のことだ、確信するのは難しかった。でも堪らないように何度も口付けを落とされ、まだ足りないと腰を押し付けられ、体が繋がっていてはその情など隠しおおせるはずがない。この男はいつもいつも素直ではないけれど、それでもこんなに慕ってくれている。たったそれだけが胸の内側からひたひたと浸透し、ぎゅっとおきたを締め上げた。
 好いているから全てを赦し、好かれているからこんなことまでできるのだ。双方向に伝わり合う気持ちを一番確かめられるのは、隠せるものもない今なのだから、だから幾度体を重ねても飽かずまた求めてしまう。唇の熱さも、乱れる息も、重なる鼓動も全てが愛しくて、自分より小柄な彼の背にぎゅっと抱き付いた。ひく、と息を飲んだおきたが体内で大きく震えた、と思う間もなく熱いものがほとばしる。まさかこれくらいでイくとは思わなくて目を瞠った。
 沖田ははァはァと息を乱し頬を紅潮させ、悔しげに奥歯を噛んで土方を睨み付けた。
「…アンタなんか──」
 続く言葉が憎まれ口か、それとも他の何かか、敢えて訊かずに頬を両手で挟み汗ばんだ額に唇を押し付ける。可愛いなァなんて本音が零れてしまいそうで、それは流石に伝えたくない。照れくさいし、何より今この悔しさを抱えた沖田に火を点けそうだ。
「もう一回、するか?」
 代わりに唇に弧を描き、乱れた呼気に載せて囁く。かっと沖田の耳まで紅くなった。さっきは強引にはじめられ、しかも勝手に達してしまわれたものだから、今度こそ満足させていただきたい。沖田がまだ稚く、土方に甘えているのはわかっているが、このガキに振り回されるのも決して嫌なばかりではないが、セックスってなァ一人で勝手に始めて終わってしまうような、そんな味気ないモンじゃァねェはずだ。
 沖田はきゅっと唇を引き結び、少し乱暴に土方の腰を抱え直した。萎える気配のない若さが、その高揚が他でもない土方に向けられている事実が嬉しい。普段では有り得ないほど大きく無防備に足を開き、鍛えようのない最奥にまでおきたの侵入を許して熱く息を吐いた。ず、ず…と確かめるように何度か緩く抜き差しし掻き乱された後、深々と抉られる。どろりと白く濁った液が腹筋に溢れ出し、取り繕う余裕もない切羽詰まった声が漏れた。
 ──こんな風になるのは、コイツだからだ。悔しいけれど、このクソ生意気なガキをこんなにも好いていた。だが普段が普段だから土方だって素直に告げてやる気はない。
 普段は無駄に目端がきくくせ、こういうときばかりてんで鈍くなってしまう可愛い男の背をぎゅっと抱き締めた。


2021.7.2.永


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