SILVER
3(R18)
 屯所へ真っ直ぐ帰りたくなくて、白い息を夜道に吐きながらぐでんぐでんの重い男を引きずるようにネオン街を歩く。
 隊服ではないから、その気になればどこの宿でも入れる。男同士ではあるが、かぶき町ではそこまで珍しいことではない。
 無防備で酒臭い息が耳元を擽る。銀時とは店の前であっさり別れた。懐手でいそいそそわそわしていた彼は、土方の財布から多めにくすねた金の使い道でも考えていたのだろう。どうせ今夜飲んでしまうか、明日パチンコ台に巻き上げられるかといったところだろうに、懲りない男である。
 だが今はそんなことより土方だ。いくらなんでも夜道で夜明かししたくはないから、半覚醒のくせに無自覚に煽り立ててくる土方の色香に心を閉ざし、腰に力を入れて近場の宿を目指す。土方は時々子供がむずかるようなうなり声をあげるくらいで、抵抗どころか自分が今どこへ向かっているのかさえ理解していないようだ。ここまで土方を安心しきらせるほど沖田の日頃の行いは決してよくはないのだけれど、それでも悪い気がしないのが困りものだ。
 土方の重みに若干足元が怪しくなりながら息を切らして宿にチェックインした。そうして一夜を借りた部屋に入り、褥に土方を横にした頃には、息の乱れと動悸が重い彼を運んだせいか、いやに幻想的に薄暗い部屋と土方自身にあてられて高揚しているのかわからなくなっていた。
 肩を大きく喘がせ、土方の足の間に片膝をつき、衽を踏みつけて唇を寄せる。夢現に心地良い微睡みの中にいる土方の睫が頬に影を落としている。
 キツい瞳が見えないと、彼はとても美しくすら見えた。なのに、あの深い青い色が見えないのがもどかしくて、酒臭い息を静かに零す唇に唇を重ねた。
「ん…」
 むずかるようにゆるゆると、無意識に打ち振られる首をぎゅっと抱き込み、荒れてかさつく唇へ舌を這わせる。ぴちゃぴちゃと濡れた音が、反応の薄い土方が、倒錯的な劣情を煽っていく。
 彼が、抗わないから。どこまでいったらあの小気味良い声で怒りだすか、試したくなる。
 だが、酔った土方はなかなか手強かった。
 緩く着流した濃紺の単衣を剥ぎ取り、帯も刀も取ってしまって彼の喉元に紅い鬱血痕を散らしても昏々と眠っている。これが沖田でなかったらいつ命を落としてもおかしくない。だが、もしかしたら沖田が隣にいたからここまで無防備になってしまったのかもしれないと思うと、それはとても嬉しい。それとも狸寝入りだろうか。
 ゆっくりと深い呼吸を重ねる土方の素肌を見ていると、そんなことどっちだってよくなった。
 逞しい男の筋肉のついた体は、ときに沖田を打ち負かすくらい強いけれど、それでもこの体を自由にすることを幾度となく許されていた。抱いても抱いても土方が沖田のものになった感じは一向にせずそれがますます彼を忌々しく感じさせてもいたが、それでも沖田は少なくとも土方の情人であるはずだった。
 素裸に剥いた体に自分も着物を脱いで覆い被さる。さらりと温かい肌が触れ合ったそれだけで、胸がきゅうっと絞られるように堪らなくなった。
 酒臭い呼気を紡ぐ唇に唇を重ね、口腔の浅いところを舌で舐る。染み付いたような煙草の苦味に脊髄がぞくぞくした。
「土方さん──」
 頭を抱き込むようにして角度をかえ、もう一度。いくらキスしてもまだ足りない。
 ぴく、と彼の睫が小さく震えた。
 息を飲んで表情を見つめたまま、ひじかたをそっと掌に握り込む。酒のせいか、ゆるゆると扱いてやっても反応は鈍い。それでも、彼が目覚めたときに後に退けないようにしておきたくて、柔らかな雄を揉み込み扱き上げる。
「ん…」
 微かに鼻にかかった声が漏れ、ゆるゆると首が左右に振られる。それが頑是無い子供のようで、もう一度吸い寄せられるように唇を重ねた。玉を揺すり、その奥の入口をつつく。
 土方の瞼がゆっくりと持ち上がり、どこかぼんやりした青い瞳が沖田を見上げた。
「──総悟?」
 一拍おいて瞳に光が灯り、カッと瞳孔が開いた。
「っ、お前、何やって──」
「ここがどこだかわかりやすかィ」
「…あ?」
「こういうこと、する場所でさァ」
 それ以上は説明せずに雄に唇を寄せる。くたりと力を失ったひじかたに接吻し、柔らかくてふにゃふにゃしたものの先端を唇に挟む。亀頭に舌を擦り付けると、それはゆるゆると頭を擡げた。
「──総悟…っ…」
 髪をぎゅっと掴まれる。だがそれは拒むというほどの強さもなく、指を絡め縋るように掻き乱された。癖のない沖田の髪は土方の束縛からさらりと逃れ、さしたる乱れもみせず手の甲に絡む。
「ん…ほら、ちゃんと元気になってきやしたぜ、土方さん」
 なかば頭を擡げたものの中程を掴み、ゆるゆると扱きあげる。酒のせいだけでなく血の色に染まった目許を悔しげに歪ませ、ふいと視線が逸らされた。
 こんなとき、こいつが好きだとしみじみ思う。ちょろいのに意地っ張りで、プライドが高くて、でも、一度胸の内に招き入れた者を完全に拒むことができないのだ。
「アンタも、してェんでしょ?」
「──てめェが、触るせいでな」
「突っ込まれてェんですかィ。俺のをケツん中に突っ込んで、ぐちゃぐちゃに掻き回して中出ししてほしいんでしょ」
「そ…こまで、言ってねェっ!」
 言葉になんかしなくても、真っ赤になって怒鳴ったら丸分かりだ。この人はからかいがいがあって可愛くて、なのに沖田の思い通りには決してならないものだから、こう見えて彼には振り回されっぱなしである。


2021.7.1.永


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