SILVER
天邪鬼
 ちゃらんぽらんな普段の態度から受ける印象よりずっと大人な銀時も、待ち合わせ場所の居酒屋に沖田を伴って現れた土方に一瞬目を見開いたものの、沖田を邪険にするようなことはなかった。ただ気怠げに片手を上げ、仕事以外でも仲良しなんだねなんて茶化しただけだ。
「っんなわけねェだろ」
 土方は大きく舌を打つものの、今は普段のように喧嘩をしたい気分ではないらしく、無造作に銀時の隣の椅子を引いて座った。
 さて、銀時の反対の隣も土方の隣も空いているが自分はどちらに座ろうか、と無表情に逡巡した沖田を土方は無駄に鋭く睨み上げる。
「いつまで立ってんだ、総悟」
 その言葉に惹き寄せられるように土方の隣の椅子を引きカウンターに三人並んで腰を下ろす。
 いつもの、後は適当にオススメなんてオーダーを躊躇わず通す二人を横目に睨み、メニューを取り上げる。土方は背凭れに体重を寄せ、煙草に火を点けた。
 二人のこなれた様子が癪に障る。だが、これは言葉にするならただのヤキモチでしかない自覚が充分にあったから、何をも言えず集中できぬままメニューを睨んだ。
「──お前の好きな鬼嫁もあるぜ」
 空耳かと思うほど低くぼそりと囁いた土方にちらりと視線を投げた。
「──ここは刺身も美味い」
 重ねられた言葉に返事をする前に、土方と銀時の前に燗酒と赤身も眩しい鮪が置かれる、と思う間もなく土方は刺身の皿を沖田に寄せ、ぶっきらぼうに割り箸など目の前に置かれた。優しすぎて気持ち悪い土方を凝視する、その隣で銀時が頬杖をついてこちらを眺めていた。
「早く味見しろ、俺ァマヨをかけてェんだ」
 言葉も出ない沖田を後目に銀時が小さく噴き出し、それを隠そうとして盃を口許まで持ち上げ喉仏を痙攣させる。
 諸々言いたいことはあったが、とにかく土方が譲りそうにないので箸を割って刺身を一切れ摘み自分の口に放り込んだ。確かによく脂がのっていて、醤油も使わずとも美味い。無表情に口を動かし咀嚼する沖田に溜飲を下げ、土方が掠め取るように皿を自分の手元へ取り返し、すぐに赤身が見えなくなるくらい堆くマヨネーズを盛っていく。それには言及せずに沖田は店主に片手を上げ、土方と同じものを注文した。
「なんだよ、仲良しじゃねーの」
 き、と土方が諫めるように銀時を睨んだ。それは本気の怒りとも、沖田とじゃれあっているときとも違っていて、なんだか面白くない。別に二人の間にナニかあると疑っていたわけではないが、だからといって普通に仲のいい友人同士であってくれても別に嬉しくなるわけでもない。沖田と土方ではどうしたってこうはいかないのだから。
 銀時は別段噛みつき返すわけでもなく盃の隙から土方を流し見、唇の端を持ち上げた。
「──で、これだけのモン見せつけてくれるってことは…今日は土方くんの奢りってことでオッケー?」
 揶揄を孕んだ口調に土方はぐ、と奥歯を噛み、稍あって顎を引いた。
「──仕方ねェ」
「じゃァ俺ァ一番高い酒と摘みをもらいまさァ」
「総悟の分は出さねーぞ」
 食い気味の否定にわざと目を見開き、二の腕に触れる。わざと甘えた声を出し小首を傾げて土方を下から見上げた。
「どうしても、ダメですかィ」
「っ…ダメだっ…」
 反駁は力無く、しかし叩かれた頭は結構本気で痛かった。
「仕方ねェや、じゃァ俺ァ酔った勢いで土方さんの秘密でもバラすとしまさァ」
 あっさりと身を引き嘯くと、面白いように土方が青くなる。
「へー? 土方くんの性癖とか?」
「っ、だから、お前を連れて来たくなかったんだよっ!」
 尻馬にのって茶化そうとした銀時の言葉半ばで卓に勢い良く盃を叩きつけ遮った土方が吠える。その耳が酒のせいだけでなくじわじわと朱色に染まっていき、だからこの人はからかいがいがあるのだ。


2021.5.8.永


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