SILVER
幕(R15)
 体を重ねても、土方はまるで態度を変えはしない。求められれば応じるし、場合によっては彼から積極的に求めてくれることもある。だが行為が終わると沖田と過ごすのを厭うような素振りをみせるし、昼間顔を合わせても別段好感を示してくれることはない。だから沖田も、土方が好きだなんて言えなくなって、ますます逆恨みのように土方を憎んでしまうのだ。
 姉に対する態度からみても、そういう方面で土方が素直でないことはわかっていても面白くない。
 でも、土方が本当に嫌いな訳ではないのだ、残念なことに。いっそ殺したいくらいに愛している。愛しているけれど、姉に対するような綺麗な感情ではいられない。本当はどんな関係が理想かなど、ぼんやり浮かびはするものの、それを土方と沖田で実現するなどいっそおぞましい。
 ──だが、土方を好いていた。こんなに人を愛せるのは、姉と彼しかいないかもしれないくらいに。
 だから、頭に花が咲いた沖田は土方のわら人形をつい全力で作ってしまう。丑三つ時どころか真っ昼間の、隊務の昼休憩に堂々と土方のわら人形を作っている沖田を土方は嫌そうに見て煙草のフィルターにがじがじ歯を立てる。
「お前な…そういうことは俺の目につかねーところでやれ」
 止めろとは言わないのかとぼんやり思いながら、副長室の真ん前の縁側にあぐらをかいてわら人形の顔面に土方の写真を貼り付けた。土方はブツブツ文句を言うくせに縁側に通じる障子を閉めようとはせず、煙草の匂いがほんのりとこちらまで漂ってくる。
「土方さんはどう思ってるんですかィ」
「なにがだ」
 苛々と唸る土方は文机に体を向けたままだが、沖田が副長室の前に陣取ってからずっとその手は止まっている。
「俺ァ、アンタが好きになっちまったみたいなんですがねィ」
 急に土方がむせかえり、稍あって少し掠れた声を吐き出すときには彼は平静を取り戻していた。
「お前、そりゃァ勘違いだろうぜ。お前くらいの頃はヤらせてくれりゃァみんな大好きな気がするモンだ」
「はァ…土方さんは獣だったからそうかもしれやせんが」
「俺ァ獣じゃねーよ! むしろ紳士だったわ!」
 ぎゃーぎゃー喚く声を聞き流し、わら人形を脇に置いて室内を振り返る。耳まで真っ赤になった顔が沖田を睨み返した。
「俺だって、アンタが好きなんざァ認めたくありやせんがねィ──」
 沖田の膝に触れそうなほど近くに、土方の写真を貼り付けられたわら人形が転がっている。
 こんなに忌々しい男。姉の心を奪っておきながら、悲しませることしかできなかった不器用な男。
 この男が如何に優しいか知り抜いてしまっているから、責めることさえできやしない。
「アンタ、覚悟しなせェ」
「あァ!? 何をだ」
「もう俺から逃げられるなんざァ思うんじゃねェや」
 どうしてこんな男に惹かれてしまったのだろう。数え上げればたくさんの欠点はある。だが、それが全て重箱の隅をつついている気になってくるほどに、この男は眩しく輝いている。
 おねーちゃんが好きだった。ミツバの好きになった男の悪いところ、嫌いなところをたくさん探してやろうと見つめていたら、いつの間にか好きになっていた。流石おねーちゃんは見る目がある。沖田を自慢の弟と言ってくれた彼女が惚れた男だ、悪い男なんかであるはずがないのだ。
 沖田はゆっくりと腰を上げ、土方を真っ直ぐ見据えたまま副長室へ踏み込んだ。
 土方は動かない。
 それをいいことに畳を踏みしめ、一歩、一歩。縁側では土方のわら人形が陽光に焼かれている。そのせいか真っ赤に頬を染めた土方の唇へ、柔らかく唇を押し付けた。


2020.7.8.永


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