SILVER
3(R15)
「おはようございまーす」
「あァ…おはよう」
 すうっと当たり前のように隣に座った山崎から、土方は故意に目を逸らした。この地味な部下は、腹立たしいくらいに目端が利く。用もないのに朝から近寄ってくる場合は大概ろくでもないことを伝えようとしていることが経験上多過ぎた。疚しいことではなかったとしても、あまり突っ込まれたくないことがあると、どうしても聞きたくない思いが強くなる。大体、仕事の話であるのなら勤務中に報告してくるともわかっていた。
「さっき、そこで沖田隊長と会いましたよ」
「…そうか」
 マヨの味すらわからなくなった土方の横顔に、山崎の視線がぐさぐさ突き刺さる。
 昨夜の沖田との関わりは決して後味の悪いものではなかったと思う。確かに性行為の終わり方に関しては少しばかり強引だったかもしれないが、沖田はしっかり土方の中に出していったのだ。もちろんそれが子供になるような腹でもないのだから中出しなんぞ単純に負担な行為で、それを許した上で更に文句を言われる筋合いはない。土方は沖田のせいで増えた残業の手を止めてまで沖田とセックスしたのだから──
「なんだか少し不機嫌でした」
「低血圧だからじゃねーか」
 そんなこと知るかと一蹴したい。沖田の機嫌がどうであろうと、土方には本来関係がないはずだ。だいたい、隊長として働くのだからいくら若輩であろうとも、勤務中は自分の機嫌は自分で直したフリくらいは最低限期待している。副長が部下の機嫌を気にしていては何もできない。
「──へェ。土方さんが昨夜遅くまで仕事してたからじゃねーんですか」
 土方は横目で山崎を睨む。彼は小さく肩を竦め、あっさりと矛を引っ込めた。
「アンタと一緒に眠りたかったんですって。可愛いじゃねェですか」
「あァ!?」
 かあっと頬が熱くなった。それで満足したのか、山崎はさっさとまだ手をつけてもいない自分の膳を持って原田の隣へ移動してしまう。
 山崎の口から聞く沖田はこんな風に、土方の知る沖田よりずっと可愛げがあることが多い。だが土方の目に映る沖田はいつも、冗談半分で土方の命を狙ってしまう小憎たらしいガキなのだ。その小憎たらしいガキが憎いだけなら土方とて体を重ねたりはしないが、だからといって可愛さが増すわけでもない。むしろ体を開く手の強引さなど、ますます憎らしさが増しているくらいだ。 年嵩で、しかも男同士であるのに沖田のようなガキに体を開いていることをどう思っているのか知らないが、女に対するように焦らしたり、土方がむしろ沖田に夢中であるかのように誘導しようとしたり、普段の揶揄のような殺意や様々な嫌がらせも相俟って、胸の中のもやもやは大きくなるばかりだ。だからといってそれを伝える言葉も持ってはいないのだけれど。


2020.6.27.永


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