SILVER
2(R18)
 しかし全て混ぜ合わせたらこの男への好意が残るから、沖田は己を保てているのだ。
 書類と硯を乱雑に脇へ避け、土方の上体を文机に預けさせる。後ろから覆い被さるように、いきり立つおきたを少し慣らしたそこへ擦り付けた。
「土方さん…いい、ですかィ」
 肩越しに沖田を振り返った瞳は剣呑な色に隠し切れぬほどの艶を孕んでいた。悔しげに唇を何度か開閉させ、食いしばった歯の隙間から呻くように吐き捨てた。
「はやく、しろって…っあ──」
 言葉が終わらぬ内に深々と貫いた、土方の背がしなる。
「っ…アンタ、本当に可愛げのねェお人ですねィ──」
 急かす声に殊更に眉を顰め、しかし絡み付いてくる内壁の狭さに息が乱れる。上擦る音が悔しくて、彼の耳朶に後ろから噛みついて歯を立てた。ぞくり、と背筋が痙攣し、きゅきゅとおきたが締め上げられる。
「っ…て、め…」
 悔しげな声はすぐに上擦った甘い声に紛れた。
 頭の芯まで痺れるようで、思考がぼやけていく。土方のことしか考えられなくなって、それが悔しいのに天国にでも行ってしまったかと思うくらい心地いい。乱れた息を土方の項にぶつけ少し煙草臭い体臭を胸一杯に吸い込んで、彼を夢中になって抉り、乱す。土方もまた、感極まったように高い声を漏らし、おきたに絡みつき、締め上げる。頭の芯がぼおっと痺れるようになって、彼しか見えなくなる。
「あ…ひじかた、さ──」
「っあ…んっ──」
 余裕のない声をキスで塞がれる。夢中になって舌を絡ませ合いながら、土方の最奥に放った。ひく、ひくと彼の体が痙攣し、精の匂いが広がる。どうやら土方も達したらしい。
「ん…っ…」
 達した後の虚脱感に包まれながら、常より幾分不器用な舌で土方の口内を舐る。土方に緩く肩を押しやられた。
「──しつけェ。俺ァまだ仕事があると言っただろう」
 コトが終わってしまうと可愛げのカケラも残さぬ男に眉根を寄せる。
 小さく舌を打ち、渋々雄を引き抜いて自分の着物へ押し込んだ。とろりと熱い雫が土方の腿へ伝ったのに、腹立たしいのに性懲りもなくぞくりと背筋が粟立った。
「アンタ、そんなナリで仕事するんですかィ。ケツから精子垂らしてお役所仕事たァ血税払った国民が嘆きやすぜ」
 殊更に侮蔑的な表現から顔を背け、土方は懐から懐紙を取り出した。
「ん…」
 漏れた切なげな声が腰を射抜くようで、沖田は大きく息を呑み目を泳がせる。たった今満たしたばかりの欲がまた込み上げてくるようで、数度ぱくぱくと唇を開閉させ、引き剥がすように顔を背けた。
 そんな沖田を無視して後始末を済ませた土方は、栗の花の匂いのする紙を丸めてゴミ箱に投げ入れ、何事もなかったように着衣を整える。耳許でガンガン喚く鼓動に灼かれるようで、ぎくしゃくと踵を返した。
「じゃ…おやすみなせェ」
「あァ」
 もう土方は振り向きもしない。なんだかあまりに悔しくて、それ以上何も言えずに副長室を足早に出た。
 彼といるといつもこうだ。感情が掻き乱されて、堪らなくなる。そしていつも、沖田が一人で振り回されっ放しなのだ。土方はいつまでも、肝腎なことには目を塞いでいる。


2020.6.20.永


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