SILVER
序(R18)
 土方は、沖田の大切なものをいつも奪っていく。近藤の温かな手も、姉の心も、全て。
 土方の頭の良さは沖田にもわかっている。自分とは違うものを持っている土方に沖田だって惹かれてもいる。土方を抹殺したいなどと言ってはみるが、本当に殺したいわけではない。もし何者かに彼が殺されたなら、近藤がそうされたときと同じくらい怒り狂うだろう。だから、沖田は土方が死を避けられなくなる攻撃はしなかった。だからといって素直に土方を受け入れるのも業腹だ。だって沖田は、沖田の全てを攫っていった土方に、どろどろとした想いを持っているのだから。
 幼い頃から素直に自分の感情を表現できず、姉を困らせないようにぐっと飲み込み続けてきたせいか、年を重ねるほどにますますひねくれていって、そして今となっては土方に対する感情がぐちゃぐちゃのどろどろに歪んで拗れて、どうしようもない。そして、根本的なところで味方に甘い土方は沖田のその澱んだものを否定しないのだから、エスカレートしていくしかなくなってしまう。
「──土方さん」
 二人きりの副長室で、私服に着替えてなお苛々と煙草をふかしながら書類を片付ける土方に背後から抱き付き、耳朶に言葉通りかじりつく。土方はぎゅっと眉根を寄せたが、沖田の手を払いはしない。
「なんだ。俺ァ忙しい」
「俺の手は空きやした」
「俺の仕事は終わってねェ」
 土方の声は言葉ほどに強くはなかった。
「土方さん」
 幼いときですら土方には向けたことのない、低く甘えた声を出し、耳朶を食み吸い上げる。土方の手にした筆が小さく震え、稍あって書類の端に転がった。
「っ…てめ──」
 沖田を跳ね飛ばさんばかりに勢い良く振り返った土方の唇を唇で塞いだ。土方はふっと肩の力を抜き、手探りで煙草を灰皿に揉み消した。煙草の味の染み付いた苦い舌で沖田の唇を舐り、ゆっくりと絡ませる。久々の彼の味に否応なく体に火が点いた。
「ん…」
 どちらからともなく鼻にかかった法悦の音を漏らし、体のラインを辿るようにゆっくりと撫で下ろす。
 単衣を着流した土方の胸元から片手を差し入れ、胸筋を掌に包みゆっくりと揉んだ。
 掌を打つ拍動の力強さが心地いい。土方が、生きていると強く感じるだけで、どこか安心する。姉の愛した男が今もなおこうやって生きていることが、いつからこんなにも悦びを伴うようになったのだろう。
 だが、性感帯でもあるそこに触れ、単純な安堵だけをただ感じていることは沖田にも土方にもできない。重なったままの下唇に甘く歯を立てられ、胸の尖りを指先でひねりあげた。
「っ…ヤるなら、遊んでんじゃねェ」
 低く唸った彼が早く済ませて仕事に戻りたいことはわかっていた。だが、沖田の手を振り払えぬ程度にちゃんとムラムラしていることも感じていた。そうであるならば、彼を仕事なんぞに取られたいはずはない。何しろ時刻は既に真夜中だ。土方だけがキリキリ働かねばならない理由はない──働かざるを得ない仕事と環境はあるにしても、だ。
 沖田は土方の体に火がついているのを確信して唇に笑みを孕み、ゆるゆると筋肉のしっかりついた胸部に指を遊ばせる。
 もどかしげに唸る土方の声に艶が混ざり、息が乱れた。
「ん──土方さん、今日はやけに暑ィですねィ」
 飄々と嘯き、薄青い瞳を覗き込む。


2020.5.5.永


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