SILVER
幕(R12)
 いつの間にかいなくなった沖田と土方は、夕闇が落ちてももどらなかった。
 彼らとて幼子ではないのだから、こんな戦争の火花も飛ばぬ田舎のこと、さほど心配はしていない。していないがしかし、村からはるばる連れ立って来た彼らとはぐれ、近藤一人用が済んだからといって帰るわけにもいかないから困ってしまう。
 幸い、農作業や土木工事を手伝った近藤に、連れの目撃情報を教えてくれる人は多かったので、話を頼りに帰り支度をして探しに行く。合流したらそのまま帰ればいいだけのことだ。
 しかし、人里をすっかり離れてもなかなか二人に巡り会えない。彼らを見つけたのは、半ば野生の勘に近かった。
「いた! あんまり心配させるなよォ」
 森の中、少し開けた空間のど真ん中で、満身創痍転がる二人は近藤を見ても鈍い反応しか返さない。
「──総悟? トシ?」
 二人の間には、近藤の腕の長さではギリギリ両方同時に触れられない程度の距離がある。いつも掴み合いの喧嘩をしているような土方と沖田の間の、この微妙な空間はなんだろう。
「近藤さん」
 先に声を発したのは沖田だった。着物から覗く手足や胸元には赤や青の打ち身が点在していて、子供でも容赦されなかったとわかる。土方はどこかぼんやりした瞳を瞬く星に茫洋と据え仰臥している。
「俺ァ、殴り合ったって通じるモンなんざねェと思ってやした」
 沖田の稚い声は、爽やかな青春に似つかわしくないほど暗かった。
「──総悟?」
 あまり子供らしくない彼にしても、いやに達観した様に呆気に取られる。
「大人なんざァ、みィんな綺麗じゃありやせんからねィ…おねーちゃんの他は」
「あ、うん、そうだな」
 ゆっくりと起き上がった沖田の、まだ柔らかい頬は月光の下でもわかるほどに腫れていた。その口元を手の甲で拭い、沖田は唇の端を吊り上げる。それがぞっとするほどの色香を孕んで見えて、思わず近藤は息を呑んだ。
 ぎくしゃくと引き剥がすように逸らした視線の先には、土方がいた。すっかり乱れた髪が地に広がり、深い息をする彼は、妖しいものを放っている。
 ──聞けはしないが、きっと。近藤には言えない何かがあったのだろう。


2017.7.8.永


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