SILVER

 近藤を局長室に送ったのち、足音を忍ばせ一番隊隊長室に近付く。内部はしんと静まり返り、彼はもう眠ってしまっているのかもしれなかった。
 意を決して襖に手をかけ、そっと引く。灯りの消えた室内に、人の気配は感じられない。そうと分かればぐずぐずしている時間はない。沖田が戻る前にと懐から取り出した小箱を床の間に置いて戻ろうと足早に近付く、そこに当の彼がいた。
「夜中に人の部屋でコソコソするたァいただけやせんねィ」
 咄嗟に庭からでも外に出ようと踵を返した、その二の腕を掴まれる。下から見上げる瞳は月光を受けぎらついていた。
「それとも何か、正当な用があったんですかィ」
「いや──」
 反射的に否定しようとしたときふと、彼のキツい言葉の孕む感情が怒りでないと気付いてしまい息を飲む。
 小さく深呼吸を繰り返し、自分の唇を舐めた。掠れた声を押し出すのが苦しくて乱暴に手にした箱を押し付ける。
 ──互いに保っていたギリギリの距離が崩れていく。


2016.7.8.永


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あきゅろす。
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