SILVER
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「あ、副長。アンタに渡すモンがあるんです」
 近藤に肩を貸し屯所に戻るとすぐ、山崎がニヤニヤ寄ってきた。──正直、薄気味悪い。
「──なんだ」
「じゃーん!」
 可愛くラッピングされたデパートの包みを土方の眼前に突き付け、意識のない近藤のせいで手の離せない土方の胸元に無遠慮に突っ込んだ山崎は、それでも殴られる前に素早く距離を取った。
「…なんだ、コレ」
 時節柄、心当たりはひとつしかないが、そういう類は全部検査中のはずだ。
「コレね、沖田隊長からなんです」
「あ?」
「俺が分類している山の中に紛れ込ませようとしてたから、回収しておきました。アンタにチョコ、だなんて結構可愛いところもあるんですね」
 言いたいことだけ言ってしまうと、身ひとつの気軽さで走り去ってしまう。廊下に響く軽い足音を、追い掛ける気にもなれなかった。
 平静を装おうとしても、浮き立つ想いを抑えきれない。どうせとんでもない悪戯が仕掛けてあるのだろうと思おうとしても、胸の中で存在を主張する小箱が、いやに温かく気を逸らせる。
 土方はそわそわ副長室に入り、背で襖を閉めるとその場に腰を落としてそっと上着の内側からリボンのかかった箱を取り出す。
 闇の帳の落ちた副長室で、傍らには、むにゃむにゃ唸る近藤しかいない。それでもきょろきょろと辺りを見回し、そっと近藤に背を向けて胸に箱を抱き寄せる。
 ほんのりと甘い香りのする箱は、一見してワゴンセールの品にしか見えない。
 土方は安っぽいリボンの片端を掴み、そっと引っ張った。微かな音と共に解かれるそれに胸が高鳴る。膝の上に裏を返して抱き直した箱の包装紙を、普段では考えられぬくらい注意深く外していく。
 こんなものがこんなに嬉しいなど、近藤をからかえない。
 現れたのはなんの変哲もないハートのチョコレートであったけれど、彼がわざわざ用意したのだと思うとどうしようもなく嬉しくて、
「な、何か変なモン仕込んでやがるんじゃねーか」
必要もない言い訳を裏返った声で呟いて、そっと一粒摘み口に入れる。細工も何もない、ごくふつうのチョコレートが口の中でとろけた。マヨネーズをまぶしたら、この土方には強すぎる甘さもさぞ円やかになるだろう。
 土方は箱を元通りに包み直すと、リボンに挟まれていたカードを拾う。薄闇で内容は判別し難いが、どうせ彼からだと確信できる証拠など残っているはずもない。二つまとめてそっとしまった、ところでようやく近藤を思い出した。彼はいつの間にか起き上がり、胡座をかいて土方をにやにや見つめていた。
「こ、こんどうさっ…」
「トシはいいなァ…お前もちゃんと渡すんだぞ」
「え…」
 土方の胸をぽんぽんと叩いてみせた近藤に息を飲む。朝からそこにしまったままの沖田宛ての贈り物が、ずしりと重みを増したようだった。


2016.7.8.永


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