SILVER

「いち、にい、さん…」
 バレンタインとやらが普及して以来この方、その日には屯所宛てに大量のチョコレートが届くようになってしまった。混ざりに混ざったそれらを宛先別に分類し、爆発物でないかを確認し、毒物でないかを調べる係がいるはずもないから、結局山崎が一人でこなしている。金属探知機のチェックを通過した山を宛名別に数えながら分類する声には、執念すらこもっていた。しかも他人宛てのそれらを開封して毒物検査するなんて嫌な仕事がまだ始まってもいないのだ、気が滅入るのもわからなくはない。
 沖田は山崎のカウントが百を超えた辺りでアイマスクを押し上げ、もたれた柱から上体を起こす。
「組宛ての贈り物お断りってふれとけばいいじゃねーか」
「通知はしとるはずなんですが…周知されてないんでしょうか」
 贈り物を扱う手付きは口調共々面倒くさそうで荒っぽい。真心のこもったものも多分に混ざっているだろうに、この有り様を見られたら山崎に敵が増えそうだ。
「俺宛てはどのくらいでィ」
「副長と同じくらいですよ」
「ちっ…」
 殊更に舌を打ち、さり気なさを装ってチョコレートの山ににじりよる。山崎の目を盗み、懐から取り出した小箱を土方宛ての山の中へ押し込んだ。筆跡を隠そうと左手で宛名だけを書いた、デパートで目についたものをそそくさ購入したチョコレート。七面倒臭い検査を経て、無事土方に届くだろうか。
「──捨てろとか言いそうだねィ」
「? 何か言いました?」
「別に。ザキィ、これだけあるんでィ、てめェ宛てのも一個くらい来てたかィ」
「ひとつもありませんよっ!!」
 せめて土方の手に取られりゃいいなァ、なんてらしくない願いを飛ばし背を向けた。


2016.5.5.永


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