SILVER
序(R18)
 出張先のホテルで隊服の上着を脱いで椅子にかけ、土方は大きく息を吐いた。本来であれば今頃は‘彼’と二人過ごしているはずだったのに、と思えば急な要請がますます恨めしくなる。だが仕事だ、仕方がない。
 土方は大きくかぶりを振って、脱衣所なんてない安いビジネスホテルのバスルームの棚に一枚一枚脱いだ服を重ねた。そうして、狭い湯船に入りシャワーカーテンを閉める。
 ひとまず頭から熱い湯を浴びた。素肌を叩く温度が疲れを癒やしてくれるようで、壁に固定したシャワーヘッドの下に片手をつき、俯いて小さく息を吐く。
 視界に入ったひじかたはぐにゃりと下を向いている。しかしひとたびそこへ彼の指が繊細に絡むと──土方は慌てて首を振る。
 水滴が壁に散った。
 しかし浮かんでしまった淫らな想起に頭をもたげたひじかたは鎮まらない。
 小さく二、三度口を動かし、大きく息を吸う。そっと勃ちあがったひじかたに手を伸ばす。
 見る者もない出先のバスルームで、意味もなく周囲を一度見渡し、そして──彼がするように掌でそこを包み込んだ。いつも粗野なくせに何故かこんなときだけ繊細な手付きで触れてくる、彼は止め処もなく脳内で鮮やかに再生され、自然に手が動く。
 頭上から降り注ぐ湯に聴覚を半ば遮られ、水音と乱れた息遣いが思考を侵していく。鈴口に透明な蜜が広がり、湯と混ざってぽたぽたタイルへ落ちた。
 後腔がずくりと疼いた。
 ──彼のために拓かれることに慣れた体は、雄としての欲求だけでは満たされない。躊躇いは一呼吸の間だけだった。
 常日頃どれだけストイックなふりをしていたって、男の体に火がついてしまったならば理性など敵わない。湯に薄められた先走りを纏った指を後ろにあてがう。ゆっくりと息を吐き、そっと押し込んだ。爪先までくわえ込み、ふるりと腹筋をおののかせる。
 彼のいつもより低い声の幻聴がとろけた思考に囁いた。
「──そ、んなんじゃ、ねェ…ッ!」
 聞く者も問う者もない言葉を震える声で打ち消し、かぶりを大きく左右に振る。じわじわと食い込む指は疾うに自分では制御できない。
 関節の皺にまでいちいち小さく身を震わせ、ぎゅうと目を閉じる。最奥まで侵入した指先でゆっくりと内壁を辿った。ぞくぞくとした痺れが腰を甘く食み、脊髄を駆け上がる。
 薄く開いた唇が、音もなく自然に彼の名を象った。腹の中が震え、指をぎゅうと締め上げる。
 生唾を飲み下した。
 ──足りない。アイツが、足りない。 強く閉ざした眦に透明な雫が宿った。熱を孕んだ呼気は自分に跳ね返るばかりだ。


2014.5.5.永


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