SILVER
2(R15)
 出張の間、とうとう頭の中心に終始居座る沖田を追い出すことができないままだった土方は、帰還一番に現れたその当人にぎくりと身を強張らせた。鼓動が耳元でばくばく喚き、息を飲む。
 周囲にいる他の隊士が意識から消え──土方は奥歯を噛み締め抑え難い高揚を押し殺す。
 真選組の副長が、勤務中に無様に欲情してなどいられない。まだ出張の報告も済んでいないし、仕事はたくさんある。日だって高い。
 土方は沖田から視線を精一杯背けて足早に脇をすり抜ける。息を乱さぬのでいっぱいいっぱいだ。
 とにかく、沖田を視界に入れていてはいけない。
 ──なのに、軽い足音がついてくる。
 土方はどんどん速度を上げ、終いには駆け足で副長室へ駆け込んだ。襖を閉め、背で塞ぐ、そこに思い切りバズーカを放たれ、間一髪で避けた。
 部屋の隅に腰を落とし息を乱した土方を見下ろし、にやにや笑った沖田が歩み寄ってくる。
「どうして逃げるんですかィ?」
「てめェはどうして追いかけてくるんだ…!」
 沖田が土方の眼前に片膝をつき、右手をこちらへ伸ばす。
 形容し難い期待が土方の脳から脊髄まで迸り、せめてもの抵抗にきつく目を閉じた。
 すこしひやりとした指先が顎に触れる。笑みを孕んだ声がぶつけられた。
「あんな物欲しそうなツラぁ晒されちゃァ、ねィ?」
「んなことね…ッ…」
 思わず目を見開いた土方がそれを後悔する前に、人のことは言えぬほどに欲を孕んだ紅い瞳に息を飲む。押し付けられた唇に熱い呼気を纏わせた。
 隊服のままであることも、まだ報告書を書いていないことも、大破した襖のことも忘れ沖田の背に手を回す。強く抱き寄せる、と熱くぬめる舌が差し入れられた。それが硬口蓋をなぞるだけで体の芯からとろけてしまう。
 高揚に霞む視界をぎゅっと閉ざした。自然と緩んだ足の間に沖田の体が割り込んでくる。互いの衣類越しにすり合わされた雄はもう、高鳴りを隠しきれない。


2014.7.8.永


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あきゅろす。
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