SILVER

 山崎と、沖田を二人きりその倉の中に残し閉ざされた扉に鍵のかかる音がいやに大きく耳についた。
 場所が拷問部屋で、彼らが彼らである故に心労は否応なく膨れ上がる。息つく間もなく、防音のきいたそこから漏れ出す、確かな殺意。平和の影に未だ息づく戦場に身を置く真選組の副長だ、間違うはずもない。これは──
 直後、沖田のそれも噴出したか、分厚い扉越しにも土方の背を粟立たせる。
 湧き上がる高揚に飲み下そうとした生唾は、乾いた口内で鈍い音になった。乱暴に手をかけた扉は、開かない。錠を下ろされているらしく、揺すってもガチャガチャ喚くだけだ。
「篠原、鍵を取って来い」
「はい」
 焦った様子も、動揺する気配もみせぬ篠原は、普段とまるで変わらぬ足取りで宿直室へ歩き出す。
「走れっ!!」
 こちらばかりが苛立っているようで、いやきっとまさにそうで腹立たしい。
 彼が命令に従うのを確認する前に、頑丈な扉を震わせる程の殺気が走り土方は咄嗟に一歩離れて刀に手をかける。だがそれ以上のことはおこらず、察することこそできても確認も介入もできない。
 気の遠くなるような数分が経過して後やっと、音もなく駆け戻ってきた篠原が銀色の鍵を差し出した。
 柄にもない焦りの余り数度狙いを外しながらもなんとか鍵穴に突っ込み、ぐるりと回す。引っこ抜く間すら惜しくそのまま勢い良く扉を開く。
 と、そこでは通常の皮膚色をした山崎の背を踏みつけた沖田が、肩で息をしていた。
「…総悟──?」
 掠れた声を漏らした土方を振り返り、沖田は不敵に口角を吊り上げる。
「他人の恋路を邪魔するヤツは、馬に蹴られるんですぜィ」
「…はァ…?」
 沖田がどんな手を使ったかはとうとう吐かせることができなかったが、山崎の肌色が常軌を逸することはなくなった以上、ひとまずの解決をみたらしい。
 くっついたばかりの甘い時間を引っ掻き回すだけ引っ掻き回した狂乱の貴公子が手だしをしてくることがなくなったのもその証拠だ。どうやら、彼なりの納得をしてくれたらしい。


2014.5.5.永


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