SILVER
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 山崎の次に使える監察といえば真選組ではやはり篠原で、彼にピンクのブツの正体を探らせるため指示を出していた土方は、ふいに屯所に響いた情けない悲鳴に片眉を持ち上げた。
「──あの声は…山崎じゃねェか?」
「そうみたいですね」
 仮にも上司であるというのに、篠原に動揺は見られない。伊東粛清の折も共にあの世に行くはずがのうのうと生き延び近藤への新たな忠誠を誓い直した彼は、どうにも腹の中が読めない。土方が部下として最も信頼している山崎が目をかけていなければ疾うに腹を割いている。
「ありゃァ幻覚かなんか見えるのか」
「まだ調査が足りませんが、たぶんこれはさっき沖田隊長が向かったせいだと思います」
 淡々と事務的な言葉に土方は頭痛すら覚え額を押さえる。
 この男がはじめに忠誠を誓ったのは真選組でも、近藤でも土方でもない。今は亡き伊東鴨太郎だ。彼が真選組の一員としての粛清を受け入れた今、篠原が一人謀反を起こすメリットなどなにもない。
 土方は篠原に噛み付く代わりに背を向け、拷問部屋へ駆け込んだ。


2014.5.5.永


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あきゅろす。
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