SILVER
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 拷問部屋の磔台に大の字に繋がれた山崎は、倉の扉の開く音に、虚ろな瞳をそちらへ向けた。
 意識が現実にあるようでリアルでない。ピンクがかった視界同様、五感がぼやけている。
 が、ずかずかと踏み込んで来た沖田の童顔に浮かんだ冷徹な表情に曖昧模糊と山崎を妨害する何かの方が怯んだか、意識が急速にはっきりした。散々好きにしておきながら今逃げるなと叫びたい。
 背にじっとり冷や汗を滲ませ、拘束され逃れるすべもないままに土壁に腰を押し付ける。足元にぱらぱらと壁砂が落ちた。
 沖田は構わずサクサク軽い音させ歩み寄り、細くしなやかな指に似合わぬ剣ダコをもつ手で無造作に山崎の顎に触れた。
 紅い瞳が探るように山崎を見据える。
 山崎は強張る喉へ唾液を流し込む。ごくり、といやに大きな音が響いたようだった。
「──今はマトモなのかィ」
「…おかげさまで」
 久しく使っていなかった錯覚すらする声帯を通過した音はかさついていた。気圧されそうな心を気力で建て直し、口元に無理やり笑みを浮かべる。小さな舌打ちが耳に届き、全身に鳥肌がたった。


2014.5.5.永


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