SILVER
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 土方の見張りを任されているのだろう、篠原はすぐに戻ってきた。そうして、土方がぐったりした山崎を抱えているのをのっぺりした顔で一瞥する。
「何かありましたか」
「山崎が倒れた」
「そうですか」
 冷静を通り越し感情を落としてきたような篠原の態度のせいで、土方も否応なく僅かばかり落ち着きを取り戻す。
 土方の腕の中山崎の肌色はゆっくりと変化し、常と変わらぬものになった。
「──逃げますか」
 動揺を一切みせず山崎の脈を取り、篠原は無感情な瞳で土方を見上げた。
「それとも、今残ってる奴らだけでも捕まえて帰りますか」
 彼の提示した選択肢は、いずれも攘夷党の大半を見逃すことを意味している。
 土方は小さく息を吐いた。
 さんざん吹き込まれた桂の真摯な説諭が脳内を巡る。
「──逃げられそうか」
「手薄ですよ、ここは。玄関と裏口に見張りが一人ずつ、窓からなら誰にも当たらず出られます」
 土方は山崎を肩に担ぎ上げ、篠原を見下ろした。
「お前、俺の隊服をどこへ持って行ったんだ」


2014.5.5.永


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