SILVER
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 桂が再度行ってしまうと篠原は、土方も山崎も放置して当然のように掃除を始めた。突っ込む気力もなく土方は彼に好きにさせながら、替えの着物として用意されたものを取り上げる。
 仲間ばかりのはずなのにそんな雰囲気を少しも窺わせぬ男達を意識しながら隊服の上着を脱いだ。
 音もなく近寄って来た篠原を見下ろし、彼が拾い上げた上着に手を伸ばす。指先の触れ合った瞬間声を出さず唇で言葉を象った。
「誰の差し金だ」
 山崎をどの程度警戒すべきかわからない。彼の忍びとしての心得が邪魔で仕方なかった。
「総意です」
 同じく声を出さずにさらりと象られた言葉に、土方は眉間の皺を深くする。篠原が何処へともなく土方の隊服を持ち去るのを止める気にもならず見送った。
 ふと視線を感じ振り向くと、パッションピンクの山崎がさっきまでとはどこかが違う、心なしか感情の片鱗を窺わせる瞳をこちらに向けていた。
「──山崎?」
 柄にもなくおそるおそる声をかける。びくり、と山崎の身が大きく震え、そうして。真っピンクのままその場に倒れ伏した。


2014.5.5.永


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あきゅろす。
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