SILVER
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 じっとり着物に汗の滲んだ頃、ようやく桂が戻ってきた。どうしたと問いかける気にもならない艶やかな女装姿で、篠原を伴って。
 思わず二度見しそうになった土方は必死に堪える。
「随分と励んでおったようだな、土方」
 汗の匂いを全身に纏う土方に佳麗に微笑み、桂は真選組隊士の篠原進之進が変装したようにしか見えぬ男を示した。
「貴様が表舞台に出るには未だ少々時間が必要だ。故にそれまで貴様の相手をする者を連れて参った」
 自分はそもそも警察の下部組織の副長であったのだから、端から光の当たるところにいた。新たな表舞台に引き出されるとすればそれは攘夷党としての表舞台、要するに現在のこの国の淀みに他ならない。それより相手ってなんだ相手って。なよい男を連れて来て稚児遊びでもしろってか。そんな誇らしげなツラしてんじゃねーよ、なんだてめェ…
 等々。
 言いたいことは胸中に山と押し寄せるが形にならない。硬直したままの土方に構わず篠原が一歩を踏み出し、桂の傍らに片膝をついた。
「篠原進之進です、よろしくお願いします」
 捻りもへったくれもない。土方はそっと溜息を漏らした。


2014.5.5.永


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あきゅろす。
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