SILVER
19
 朝会で芳しくない議題を討論している最中、沖田の携帯が軽快な音を奏でた。切腹だと喚く人物のおらぬ事実に更に重くなる空気の中ポケットから喧しい機械を取り出す。
 応答するか否か迷い画面を見て、硬直した。
「──近藤さん」
「どうした、総悟」
「ザキから、電話でさァ」
 場に緊張が走る。満場の想いを背にそっと通話ボタンを押す。
 大きく息を吸い、淡々とした声を押し出した。
「何でィ、この期に及んで」
「総悟か?」
 しかし予想に相反し聞こえたのは紛れもない土方の声だ。沖田は無表情のままに生唾を飲み下す。
「アンタですかィ、どうしやした」
「少しだけ、見張りが外れた。俺ァ今おそらく──」
 潜めた声が早口に告げる地名をメモも取らず頭に叩き込む。
「──なるべく連絡は入れてェ。が、1日なければ総員で突っ込んで来い」
「アンタ──」
 開きかけた唇は遠くから土方を呼ぶ声に閉ざすしかなくなる。と同時に通話が切られた。
 総悟は暫し、ぷー、ぷーと喚く携帯を見つめ、顔を上げた。
「誰かシノを呼んで来なァ」
 ぐるりと室内を見渡し、一人転がるように出て行くのを後目に近藤に向き直る。
「ザキの携帯で、土方が連絡してきやした。なんか掴むまで潜入していてェ、連絡が途絶えりゃ仕方ねェから引っ捕らえに来いなんてバカをほざいてやす」
「──そう、か…無事で、良かった」
 深々と安堵の息を吐く近藤に同調する空気を裂いて、監察方の一員、篠原進之進が音もなく会議室の前に片膝をついた。
「呼びましたか、沖田隊長」
 特徴の薄い顔には何の感情も浮かんではいない。監察方ってなァどいつもこいつも──と思うが、苛立ちは腹の中に押し込め無表情を返した。
「近藤さん、土方は正体がバレてやす。アイツの連絡が途切れてからじゃァ手遅れになりまさァ。──一人、割れてねェヤツを突っ込むなァどうですかィ」
 そこで漸く沖田の意図の読めたらしい近藤は、渋い顔をしてみせた。


2014.5.5.永


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あきゅろす。
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