SILVER
18
 徹夜で移動する昔ながらの駕篭に乗せられ、外を見るのも許されぬ代わりに洗脳が如き攘夷思想をぶっ続けに説かれ──桂には桂なりの信念があるのだとは理解を深めたが、土方にだって土方の信念がある。口を開けば論議はどこまでも平行線だ。
 桂の言い分も判らぬではないからさらに面倒なのだ、決して納得するわけにはいかないというのに。
 そんな夜を明かしぐったり疲弊した土方と裏腹に、何故かツヤツヤした桂に促され朝日射す地に降り立つ。
 太陽が黄色い、本当に。目を射る光にいつも開きやすい瞳孔が堪らず収縮した。
「貴様はしばしここに滞在してもらう」
 示された家屋は今にも崩れそうな襤褸屋だが、文句を付けられる立場でもない。
「今日は疲れておるであろう、すぐに朝餉を用意する。それまで身も心も安らぐが良い」
 そう言ってくるりと背を向けた桂と、土方の間に山崎が立ちふさがる。
 彼のピンク色が朝日に霞む目のせいばかりでなくみるみる薄れ──そして、見慣れた彼の肌色になった。
「山ざ…」
「ふくちょーっ!!」
 土方が口を開くと同時に彼の瞳に涙が浮かび、押し倒さんばかりに抱き付いてきた。普段ならば軽く受け止めるどころか蹴り飛ばすことだって可能なはずなのに、疲労した体は二、三歩踏鞴を踏んでボロボロの扉に荒く背を預ける。大きく軋んだ板戸はなんとかその形状を保っている。
「ふくちょーっ!! 俺、おれっ…頭がぼーっとして、でも時々目が覚めて…うわーんっ…!」
「落ち着け、てめ──」
 宥める言葉は、二人の密着した体の狭間で山崎が何か小さなものを押し付けるのにぎくりと凍った。
 視線を山崎の表情から動かさぬままに受け取る──山崎の、携帯電話だ。そう認識した瞬間その小さな機械をズボンのポケットに捩じ込む。
 直後土方に抱き付いたままの山崎がぴくりと震え──まっピンクに発色した。
 反射的に彼を蹴り飛ばすも、その足は空を切った。数m離れた場所へ一跳びとびすさり片膝をつく彼に小さく溜息を漏らす。
 山崎の状況が掴めぬと、どう考えても不利だ。山崎だけならば負ける気は一切ないが、彼だけに勝っても桂をしょっぴけるわけではない。


2014.5.5.永


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