SILVER
16
 物騒な気配を無関係な客席に撒き散らされては営業妨害になると通された店の奥は、実に生活感が溢れていた。
 白いペンギンの着包み──のような何かが無表情に茶を持って来て小さな卓袱台に置く。正面には桂が女装したまま正座し、山崎は真っピンクのままその後ろに控えている。
 ゆったりと茶を啜る桂は実に優雅だ。
「──なんなんだ、ありゃあ」
 呆然とエリザベスと山崎を眺める土方にそっと耳打ちした。
「ザキのは…惚れ薬じゃねェかとかアイツ自身が言ってやしたが」
「惚れ薬?」
 土方は軽く瞳孔を開き、桂を見やり、山崎に視線を戻した。
 彼らに注意を残したままの土方の唇が沖田の耳元に近付く。長めの前髪が頬を擽った。
「恋した相手に絶対服従っておかしいだろうが」
「そりゃァ残念。俺ァアンタを服従させてやろうかと思ってたんですがねィ」
 軽い調子に土方の眉が顰められる、が何も言わなかった。
 冗談はともかく、事態は山崎が桂に恋をしたで済まされる程には単純でない。そっと卓袱台に湯呑み茶碗を置いた桂が土方を見据えた。
 知らず背を伸ばし──
「貴様、俺と共に攘夷を成さぬか」
 ずっこけそうになった。
「成さねーよ、そんなもん」
「ならば山崎を返せぬと言っても?」
 土方の肩が小さく揺らぐ。その隙に沖田は淡々と口を挟んだ。
「俺のとこの二人についちゃァどう考えてやがるんでィ」
「あの者達か──土方が頷くならばすぐにでも解放してやろうではないか」
 土方の瞳が沖田を瞬間捉える。
「てめェ、先に帰ってろ」
 あっさり吐かれた言葉に反応を示さず沖田は桂へ視線を投げる。
 ややあって腰を上げた。
「あの二人を連れてなら、俺ァ一旦引き上げてやらなくもねェ」
「交渉成立だな」
 桂が大きく頷く、と同時に山崎が音もなく部屋を出る。
「土方、貴様のケイタイとやらを沖田に渡すが良い。貴様の攘夷活動には必要がないものだ」
 唯一の連絡手段になるであろうそれを沖田は眉を顰め受け取る。
 潜入捜査を向こうから受け入れてくれる、こんな危険極まりないチャンスはまたとない。…人質さえいなければ乗りたくないくらいには性に合わないが。
 沖田は土方から顔を背け、足音荒く部屋を出る、と山崎がさっと裏口の戸を開けた。
 薄暗い路地には縛られた隊士二人がぽつねんと立っている。
 沖田が外へ踏み出すと同時に扉が閉められ、がちゃりと鍵までかけられた。


2014.5.5.永


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