SILVER
15(R12)
「こんばんはー」
 そーっときらびやかなドアを開けて入って来た山崎は、あまりにもいつも通りだった。
 店内の喧騒に掻き消されそうなその気弱な声を逸早く聞き咎め、土方はソファを蹴立て山崎に跳び蹴りを食らわせる。街路まで吹っ飛んだ彼はそれでもすぐに跳ね起き、ふくちょーっ、と心底嬉しそうに飛び付いて来た。
 やや遅れ普通に出て来た沖田が静かに怒気を纏う。
 更にその後ろで桂が誇らしげに腕を組んだ。
「元気であろう?」
「あー…元気、だな」
「そりゃァいいがアイツらはどうしたんでィ」
 一瞥した山崎は、ネオンのせいで定かではないがとりあえずいつもの肌色をしているようだ。
「あ、あのピンク! わかりましたよ、やっぱり天人の──」
「一番隊の二人はどうしたんでィ」
 意気揚々と宣う山崎に沖田が重ねて問う、と彼はぐっと言葉に詰まった。
「──気付いたら撒いてました、すみません」
「それだけで電話も通じねーはずがねェだろィ」
「あの者達ならば俺──桂さんのアジトにおるぞ」
 脳天気な声に頬がひくひく引き攣った。土方が手を出す前に沖田が桂の胸倉をつかみあげる。
「てめェ、アジトとやらはどこでィ」
「そのようなもの、ヅラ子知らなーい」
 殺意しか湧かない。
 土方はずかずか道路に進み出て、山崎の首根っこをひっつかむ、瞬間。山崎がピンクに発色した。
 とっさに手を引いた土方の手首が直前まで有った箇所を何かが一閃する。目にも止まらぬ速さで煌めく線を一筋引いたそれが、山崎の胸の前で止まる。
 土方は彼の手の中に納まる苦無に頬を引きつらせた。
 山崎に負ける気など一切ないが、その殺意が本物だったことくらいわかる。
 沖田が桂の綺麗な着物の胸元を掴んだまま、土方を押しのけ前へ出た。
 どん、と乱暴に押し付けられた桂からは、何やら甘い香りがした。
「見張ってなせェ──油断するんじゃねーですぜィ」
 言われずともそんなことできるはずもない。だがとっさに掴んだ桂の二の腕はいやに細くて、不用意に力を込められない。
 困惑する土方を置き去りに沖田が刀を抜く、と同時に街路の中央までとびすさった山崎がくないを構えた。
 煌めく刃物に通行人が息を飲み遠巻きに距離を取る。沖田が大きく息を吐いた、そのとき。
 桂の静かな声が響いた。
「全く──これでは営業妨害、ママに怒られるではないか。なァ、山崎」
 ぴく、と山崎の片眉が持ち上がり、一跳び。沖田の頭上を越えて彼は苦無を胸元にしまい、オカマバーの扉を開けた。
「──どうぞ」


2014.5.5.永


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