SILVER
10(R12)
 右手に無造作に刀を提げているだけに見えるのに、隙がない。
 刀を大きく横薙ぎに振るい、浪士二人を弾いて飛び退った。背が軽く窓枠にぶつかる。
「──今日は逃げねェのかィ、桂」
「あァ。本来ならば衝突は避けたいが、貴様が来ることはわかっていたのでな」
 山崎との騒ぎを見ていたならば、そうかもしれない。
「しかし──どうやら土方は俺の贈り物を受け取ってはくれなかったようだな…」
 憂いを含む表情で大きく溜息をつく桂は、自然の流れのようにそのままゆったりと沖田へ切っ先を向けた。
「やっぱりてめェの仕業かィ──何が望みでィ」
「俺は先日から終始一貫して土方を、と言っておる。敵方ながらにあの才と美貌は素晴らしい。一度手中におさめたならば、必ずや我等攘夷党の元で真に輝くに違いない」
 真っ直ぐ正面を見据え断言する桂に、沖田は殊更に肩を竦める。
 美貌が眺めたければ鏡で充分だろうし、才ならばそれこそ敵方ながら金も現状勝ち目もない党に配下を多数抱えた桂にこそあるだろう。また、土方のようなじゃじゃ馬を馴らせるのは近藤にしかできぬと信頼している。
 何より、あれは沖田のものだ。
 沖田は大きく息を吐き、上段に構える。桂の紅い唇が不敵に歪んだ。


2014.1.26.永


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