SILVER
9(R12)
 沖田はラブホから一人出て、屯所と反対方向へゆっくり歩いた。
 山崎を連行してきた道を逆に辿り、彼を見つけた場所に立つ。
 周囲を見渡し、時刻からすればもっと賑わっていてもいいのに人っ子一人いない場所に眉根を寄せた。
 梯子を拝借して山崎のいた民家の屋根によじ登り、彼が覗いていた窓から中を見る。質素な室内は空っぽだった。
 ガラス戸を引いてみる、とそれは抵抗なく開いた。
 畳敷きの室内へ草鞋のまま踏み込む。人の気配も、最低限必要であろう調度品もない、どうにも生活感のない部屋だ。外観は普通の民家と変わらぬのに──
 沖田は腰のものに左手を置き、正面の襖を開く。瞬間、眼前を一閃した刃から間一髪飛び退った。
 鯉口を切り、重心を落として和室の中央に立ち全方位に気を巡らせる。
 右手脇の押し入れが音立てて開き、左手の床の間の畳が跳ね上がった。両側から飛び出して来た浪士の刃を抜き放った菊一文字RX-7で受け止め、正面を睨む。
 狭い廊下に繋がる襖から、ゆったりと桂が姿を現した。


2014.1.8.永


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あきゅろす。
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