SILVER
8(R12)
 マジの、殺意と怒りが渦巻き返答次第では──
「いや、あの…話し合いましょうか、ねっ?」
「てめェのピンク、薄くなってきたねィ」
「へっ?」
 言われて視線を、固定された自分の手に流す。人間では有り得ぬ色に染まっていたはずのそこは、薄桃色にまで戻っていた。
「ピンク色に操られてたってェ言い訳が通用するたァ、まさか思っちゃいねーよなァ?」
 まさかも何も、事実それ以外考えられない。
 冷たい笑みに唇をうっそり歪めた沖田は瞳孔を開き山崎を真っ直ぐ見据える。ごくり、と唾を飲み込んだ。
「──何でもいいから思い出しな。さもねェと腹ァ斬らせるぜィ」
 いつもパシリに使われるときのような生易しい脅迫じゃない。必死に回らぬ頭を回転させ、途切れた記憶をひっくり返す。
 一番はじめに浮かんだのは、長髪の美人をじっと見つめていたことと、そして沖田を殺したくないという思いだった。
 長い黒髪を背に下ろし、真剣な顔付きで何かを熱弁する秀麗な青年──彼は、問答無用で魅力的だった。
「あれ──惚れ薬かもしれません。聞いたことはありませんが、調べてみますから。解いてくれませんか…?」
 なんとなくの心当たりを掴み、山崎は真っ直ぐ沖田の瞳を見上げた。
 土方に報告して、こちらに少し時間を割きたい。ただでさえ期限の迫っているまだ終わっていない仕事がひとつ、ふたつ──ああ眩暈がする。
 沖田は黙って山崎の目を睨み返し、ややあってくるりと背を向けた。出入り口らしき扉の脇で固唾を飲んで立ち尽くしていた一番隊の隊士二人に顎を決ってそのまますたすたと出て行ってしまう。
「解いてやりなァ。屯所まで目ェ離さねーでしっかり連れて行くんだぜィ」
 ぱたん、と扉が閉まった。


2013.12.25.永


9/35ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!