SILVER
6(R12)
 ──なるべくなら、土方の子飼いを裏切り者にしたくないこちらの気も知らずに。
「洗脳でもされたんですかね…?」
 不安げに呟いた部下も刀を構え山崎に向き直った。
「洗脳…? アイツをやるなんざァどこの手練れで──」
 口に出した瞬間、思った。あの、ピンクの──
 山崎が無造作に投げたクナイが足元に刺さる。
 入れ違いに地面を強く蹴って彼のいる屋根へ飛び上がった。
 事情を把握するためにも、彼を抑え込まねばならない。
 彼の顔の高さに突き込んだ刃は山崎の長めの髪を数本斬ったのみで避けられる。大きく左側に跳んだ彼を追って横に薙いだ刃の下を潜り抜け、山崎が何かを投げつけた。柔らかなそれが何かを認識する前に斬り捨て、彼の胸元を蹴りつける。それは呆気なく避けられ空を切った。
 剣術の腕はともかく、普段拳も蹴りも甘んじて受ける彼は、本気でやり合おうとしていないだけだと痛感する。
 沖田は柄を握る手に力を込め一歩踏み出した、そのとき先程投げつけられたあんパンを踏んで足が滑る。
 ──ザキのくせに。
 刹那傾いだ上体に山崎の刀の切っ先が向けられた。仲間内故の気遣いをどこかに残した刃が。ひく、と沖田の頬が引き攣り、直後。山崎の手首を思う様峰打ちし、取り落とされた刀を踏みつけ、彼の腹へ自分の愛刀の柄を叩き込んだ。
 がく、と頽れた彼を抱き留め、唖然と固まる部下を振り返る。
「運ぶぜィ」


2013.10.2.永


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