SILVER
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 通報のあった場所に急行すると、確かにいた。髪も肌も蛍光ピンクなんて凄まじい色した男が黒装束を身に纏い民家の屋根に片膝ついて窓から家の中を覗いている。夕闇の迫る中でも彼は自ら発光しているらしくぼんやり輝き、怪しいなんてモンじゃない。
「そこの男! 降りて来な、しょっぴいてやらァ」
 遠慮会釈もなく拡声器を用い呼び掛ける、と彼はぼんやりこちらに顔を向けた。
 その表情はどこか茫洋としていて捉えどころがない。こちらを見ているようで、見ていない。不自然な程に開いた瞳孔だけが黒くて、ぞわりと背筋が冷たくなった。
「ザキ…」
 沖田は掠れた声で呟く、と同時に拡声器を放り出し、山崎目掛けて思い切りバズーカを放った。
 監察方筆頭の名に恥じぬ反射神経で一跳び躱した彼が、何かをこちらへ投げた。
「あの野郎…」
「退けっ!!」
 血気盛んな一番隊が呆然と呟く、そんな部下達に鋭い音を投げつけ飛び退った。
 刹那の後、さっきまで沖田の立っていた場所へ落ちた玉から煙が噴き出す。僅か吸い込んでしまった瞬間、鼻腔が焼け付くような刺激臭がした。口と鼻を片手で覆い目を眇める。
「な、なんですか、アレは…」
 きっと、いつもの山崎の珍妙な行動が通報に繋がってしまったのだろうと思っていたらしい隊士が叫ぶ。
 あれが何かなど沖田が知りたい。沖田だって、山崎がカバディでもしているだけだろうとしか思っていなかったのに。
 距離を取った沖田は刀を正眼に構え山崎に向き直る。剣術で負ける気は一切ないが、先程の煙のせいか若干手が痺れる。こちらは新米隊士と二人、自分がこんな状態で隠密の心得のある彼とどこまで張り合えるかはわからない。
 だが、目の据わった山崎を、今自分が止めねばならない。


2013.9.25.永


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あきゅろす。
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