SILVER
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 しかし、彼女の手には力がこもらぬまま、ミツバはゆっくり首を左右に振った。
「ダメよ、そーちゃん」
「…どうして」
 喉から零れた声が、少し震えた。土方の手が沖田の指をそっと引き剥がす。
 ミツバも土方も、泣きたくなるほどに温かかった。
「──起こしちゃってごめんなさい、そーちゃん」
 ミツバはそっと総悟の背を抱き寄せ布団に誘導する。
 ──また、子供扱いだ。噛みしめた唇は、血の味がした。
 布団に総悟を横たわらせようとする姉に逆らえるはずもない。仄かに甘い香りを纏ったミツバの腕は、無条件に安堵した。人工的でないこの香りは何だろう。
 ミツバにぎゅっと抱き付き、肩口に鼻先を寄せた。
「そーちゃん?」
 掛け布団にくるもうとしてくれた手が止まる。
 ──ごはんの匂いだ、と思った。ごはんと、石鹸。そして、布団の匂い。総悟をいつも優しく受け止める、香り。
「姉上は、土方が──」
 好きなんでしょう…とは、ミツバの人差し指が総悟の唇を塞ぎ言えなかった。淡く笑った彼女は、ゆっくり首を左右に振った。そうして弟の手を静かにほどく。
「おやすみなさい、そーちゃん」
 彼女はすっと立ち上がり総悟に背を向けた。
「十四郎さん、玄関まで送りますね」
「──ありがとうございます」
 土方には決して触れず、一歩距離を保って二人が出て行く。
 襖を閉めるときも、ミツバは弟を見なかった。ただ土方だけがちらりと総悟を一瞥し、その視線が逸らされるより早く素っ気ない襖に遮られた。


2013.7.8.永


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あきゅろす。
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