SILVER
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自分が眠るまで添い寝して、家事を片付けてからまた隣の布団に戻って来る。そんな姉の生活リズムを知ってから総悟は、何も知らぬ幼子のように呆気なく眠ってしまうことはできなくなった。
ともすれば本当に眠りに落ちてしまいそうな狸寝入りをし、姉が部屋を出て行ったら今度は音を立てずに瞼をこじ開ける。それもこれも、おねーちゃんと一緒に眠りたいからだ。
姉が戻って来るまで起きていられるように自分の頬を抓り、布団から這い出して月を見上げる。薄く開いた障子の隙間から侵入して来る息詰まるように冷えた空気は、肺の内側から身を冷やした。
と、普段よりずっと早く廊下を近づいて来る足音に、慌てて布団に潜り込む。
鼓動が高鳴った。
枕に頭を乗せ、目を閉じる。廊下との境の襖が静かに開いた。いつもより足音が、重い。
「──土方」
ぱちり、と目を開くと確かにそこには小憎たらしい男がいた。昼間泣く泣くやったマフラーを枕元に置いて彼は、驚いた風もなく総悟を見下ろした。
「寝たふりなんざしてんじゃねーよ」
「なにしにきてんだよ、おまえ!」
見覚えの有りすぎるマフラーが、開けっ放しの障子から差し込む月明かりを受けくたりと丸まっている。
掛け布団を蹴り飛ばして跳ね起き、マフラーを見据える。背を向けすたすた行ってしまおうとする土方に突進した。
2013.6.6.永
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