SILVER
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 一人で道場の裏に来いと沖田に囁かれた土方は、周囲を警戒しながらそっと練習後にそこへまわった。
 山に面した待ち合わせ場所で仁王立ちになった彼は、意外にも何を仕掛けて来るでもなく土方を睨みつける。
 彼の首に巻かれたマフラーが冷たい風にはためいていた。
「──何すか」
 身構えながら口火をきっても、彼は充血した瞳で土方を見据えるばかりだ。
 痺れを切らし、用がないならと背を向ける。と、彼は徐に柔らかそうなマフラーを外し、土方へ突き付けた。
「姉上が」
「…あ?」
「三日、夜なべして作った。お前なんかのために」
 そう言って沖田は、悔しげに唇を噛む。
「──受け取れ」
 土方はゆっくり瞬き、差し出されたそれを見下ろす。
「…嫌だ、と言ったら?」
 沖田の瞳が泣き出しそうに歪んだ。
 直後、それを恥じるように土方にマフラーを投げつけ、踵を返す。
「うるさい! 渡したからな!!」
 みるみる小さくなる背中を見送り、土方は地面に落ちたマフラーを拾いあげた。
 砂をはたくと、ふんわりと柔らかな感触が指先に触れる。
 ──いけない、と思う。
 自分は、こんな、優しいものを受け取っては、いけないのだ。


2013.5.24.永


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