SILVER
幕(R15)
行為が終わると土方は、さっと沖田を押し退け身支度と清算を済ませた。そうして沖田を待とうともせず先にたって行ってしまう。
沖田がホテルを出たとき土方は、夕焼け色に染まった住宅街をすたすた歩いていた。湿った隊服を嫌そうに提げている。
小走りに追いつき、見上げた横顔は橙に色付いていた。不機嫌な表情と開いた瞳孔──普段と何も変わらないはずなのに、いつもよりずっと美人に見えた。
「土方さ…」
つ、と左手の甲に触れたとき、またしても轟音が響く。
「定春、待つアルよっ!」
聞き憶えのある少女の声もまた。
しかし、ひくりと頬を引き攣らせた二人の真横を、犬は見向きもせず走り抜けて行った。
「──なんだったんだ…?」
犬を見送る土方の肩を掴む。人通りの少ない住宅街で、民家の壁にその背を押し付けた。
「総悟?」
腰を抱き寄せ、そっと背伸びした。唇ぎりぎりの距離で口端を持ち上げる。
「犬なんざほっときなせェ」
薄く開いた桃色にぱくりと食い付いた。
蹴りつけようとした足の間に太腿を割り込ませ、舌を捻じこむ。
土方の瞼が閉ざされた。
「──あんたは、俺だけ見てりゃァいいんでェ」
ぎゅっと二の腕を掴まれた。
「お前こそ…ヨソ見したら許さねェぞ」
どくりと鼓動が跳ね上がる、が何食わぬ顔で笑みを貼り付けた。
「──できねェように、せいぜい気張りなァ」
不敵に歪む唇をもう一度重ねた。
後日。自ら情報を集めて浮かび上がった、妙な副作用の存在に沖田は小さく舌打ちした。効果の持続中犬を興奮させるフェロモンなんか放って、一体なんの役に立つというのだろうか。
──役に立ってしまったから余計に、面白くなかった。
2012.7.8.永
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